内耳の組織マクロファージ
2008/2/27 岡野高之
内耳は免疫学的に特異的な器官?
原因不明の内耳疾患の病因として、古くから免疫傷害説が提起されています。メニエール病の一部やステロイド依存性難聴といった、両側性の変動する感音難聴で、ステロイドの投与が奏効し、免疫応答がかかわると推察される内耳の病態は臨床的には知られていますが、その内耳障害の詳細な機序やステロイドの作用機序についてはほとんど知られていません。
基礎実験においては、障害のない内耳には通常リンパ球は存在せず、外リンパ液中のIgGは血中の約1/1,000であり、毛細血管壁に血液内耳関門が存在することなどから、これまで内耳は免疫学的に特異的な器官であるとされてきました。
骨髄由来の細胞が内耳に常に存在する
近年、複数の研究室によって、強大音やアミノ配糖体などによる内耳障害の際には、全身循環から単核球が内耳へと移入し、マクロファージとして集積することが明らかにされました。これは、正常の内耳において内部環境の変化に対応すべく免疫応答が常に活動していることを示唆します。
京都大学耳鼻咽喉科でも、造血系骨髄由来の細胞が緑色の蛍光を発する骨髄キメラマウスを用いて、骨髄由来の細胞が障害のない状態の内耳に広く分布し、特にラセン靭帯やラセン神経節、蝸牛軸の聴神経に多く存在することを明らかにしました。
内耳の骨髄由来細胞の大部分がマクロファージとして存在する
内耳に免疫担当細胞として組織マクロファージが存在することは、これまでにもいくつかの動物実験で示唆されていますが、依然その分布や密度、表現型において相違点が見られます。
これらのことから我々は蝸牛の組織マクロファージの起源と、造血系骨髄からの蝸牛マクロファージの供給について前述の骨髄キメラマウスを用いて検討しました。
その結果、内耳における造血系骨髄に由来する細胞の80%以上が、CD68、F4/80、Iba1などのマイクログリア/マクロファージに特異的なタンパクを発現しており、組織マクロファージとして存在していることが示されました。また障害のない状態では骨髄由来の細胞により蝸牛マクロファージは6ヵ月以上かけてゆっくりと置き換わることが明らかとなりました。
一方、内耳へ手術侵襲を加えた際には、骨髄に由来する滲出性マクロファージの増加が迅速に見られ、これまでの強大音やアミノ配糖体による内耳障害と同様に、内耳に外科的な侵襲が加わった際には単核球由来のマクロファージが集積することが確認されました。(Journal of Neuroscience Research, 2008, PMID: 18253944)
内耳のマクロファージが難聴の治療における新たな標的となるか?
内耳の障害の際に見られるマクロファージの集積が、内耳の保護的に作用するのか、傷害的に作用するのかは、いまだ不明です。現在、私は強大音曝露による騒音難聴モデルを用いて、血液中にほとんど単核球がないマウスで、強大音曝露後の聴力変動やマクロファージの集積がどのように変化するかを検討しています。そして将来的に内耳のマクロファージの集積や、サイトカイン放出を制御することで、難聴の新たな治療法の開発につながることを期待しています。
図 蝸牛の全体の断面と、蝸牛の各部位の強拡大を示したもの。
緑色のEGFPで示す骨髄由来細胞が、矢印で示すように、ラセン靭帯およびラセン神経節・聴神経に分布する。
最終更新: 2012年1月31日 23:05
