京都大学医学部附属病院耳鼻咽喉科・頭顎部外科

研究者の方へ

内耳再生研究

内耳は、聴覚と平衡機能を司る臓器です。聴覚は振動という音情報を収集し、平衡機能は重力や頭部の加速度情報を収集していますが、どちらのシステムでも有毛細胞という細胞が物理刺激を神経刺激に変換し、蝸牛神経節細胞に伝えています。有毛細胞はいったん傷害されるとその再生がきわめて困難であり、有毛細胞が失われると神経節細胞も徐々に失われてゆき、内耳障害は不可逆に進行します。

ある組織が再生するとき、それはその発生過程を模倣すると信じられています。同じ感覚器でも、網膜の発生についてはすでにかなり詳細な分子生物学的相互作用が解明されていますが、内耳の発生に関しては、いくつもの遺伝子が内耳の発生に関わっていることが明らかになっているとはいえ、それらの相互作用などを含めてここ1~2年で特にホットな研究領域になってきたところです。ただ、実際の再生医療への応用となると、内耳のような複雑な構造を持った臓器に関しては、まだまだハードルが高いと考えられています。

その中において、我々は、in vitroからin vivoへ、さらに臨床応用へとつなげる研究というスタンスで、世界の内耳研究者の中でも独特なポジションを獲得しています。その内容は広範囲にわたりますが、ここにその一部を紹介します。

内耳への導入ルートの確立と細胞治療の試み(神経幹細胞、胚性幹細胞、骨髄由来間葉系幹細胞)

再生治療を行うツールとして用いられる薬剤や遺伝子、細胞などをいかにして局所に導入するか。これは、内耳においてはその構造の複雑さ、繊細さから、非常に大きな問題になります。また、遺伝子などの情報がもっとも豊富なモデル動物であるマウスは、内耳が小さいという点から内耳研究のモデル動物としては不適切と考えられてきました。しかし我々は、マウスを含めて、様々な内耳への導入ルートを開発し、評価し、実際の研究に用いてきました。薬剤や遺伝子発現ベクターが導入できることはもちろんですが、我々はそれよりも困難な、細胞の導入にも用いています。実際、遺伝子導入した細胞を蝸牛に導入・生着させてその機能を確認したり、神経に分化誘導した胚性幹細胞(ES細胞)蝸牛神経節に導入してその神経突起の伸長を確認したりといったことに成功しています。このようなとりくみについて、当研究室は世界でももっとも先進的といえます。

聴神経機能の再生については、こちらをご覧ください。(聴神経再生研究)

細胞生物学的アプローチ

内耳幹細胞の検索、内耳培養系それぞれの臓器には臓器特異的な幹細胞が存在し、それを用いて正常組織は修復しているという考え方があります。内耳においても幹細胞の存在を期待させるようなデータがいくつか報告されています。我々としても内耳幹細胞が手にはいるなら、その応用範囲は広いと考えています。現在までに、内耳由来の細胞株を樹立し、分子生物学的手法、組織学的手法、あるいは遺伝子スクリーニングなども用いて、検討を加えています。

内耳組織や細胞の培養は、内耳再生研究を行う上で必須の技術となるわけですが、この系で我々は、未分化な内耳細胞から有毛細胞を分化させたり、有毛細胞と神経細胞を共培養してそのシナプスを再形成させることなどに成功しています。また、有毛細胞を効率的に培養・増殖させる試みも行っています。

内耳細胞死、細胞周期制御に関する研究「自発的有毛細胞再生に向けて」

ヒトを含む哺乳類では、内耳有毛細胞は再生しませんが、例えば、カエルでは有毛細胞は常に新しいものと入れ替わっており、ニワトリでは平衡器官の有毛細胞は常に入れ替わり、聴覚の有毛細胞は障害を受けたときにだけ再生します。それではなぜ哺乳類では再生しないのか、というのがこの分野の研究者にとっての長年の疑問でした。ニワトリで見られるこの現象が哺乳類で再現できれば、有毛細胞は再生するはずです。様々な研究から、有毛細胞が障害を受けたとき、支持細胞が脱分化して増殖し、新たな有毛細胞と支持細胞を生むという過程が現在のところもっとも有力な説で、マウスではこのための細胞増殖が起こっていないことが知られています。このことから、私たちは細胞死と細胞周期をコントロールすることによって、有毛細胞が自発的に再生する可能性があると考えています。 また、有毛細胞が分化するときにはNotchシグナル伝達系が大きな役割を果たしていますので、これをコントロールすることにも挑戦しています。

内耳Drug Delivery Systemの開発

内耳再生に有効に働く薬剤として、すでにいくつかの候補が存在します。私たちは、そのような薬剤を内耳という特殊な環境に適切に投与するシステムを開発して効果を高めたいと考えています。内耳再生という非常にチャレンジングなテーマの中にあって、もっとも臨床応用しやすい分野といえます。私たちは再生医学研究所の協力のもと、それぞれの薬剤に最適な内耳へのDrug Delivery Systemの開発に取り組んでおり、現在臨床応用への準備を行っています。臨床試験が認可されましたら、ホームページなどでお知らせする予定です。

これらの研究の一部は、国内外の研究機関との共同研究として行われています。

私たちは可能な限り早期の臨床応用を目指していますが、そのためにはしっかりとした基礎研究による裏付けと幅広い角度からの検討が必要と考えており、私たちは内外の幅広い分野からの共同研究者を求めています。また、多施設間での共同研究にも、これからも積極的に取り組みたいと考えています。

内耳再生研究に関するお問い合わせは、下記連絡先まで e-mail、ファックスまたは書面でお願いいたします。

お問い合せ

中川 隆之

〒606-8507 京都市左京区聖護院川原町54
京都大学大学院医学研究科

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

FAX: 075-751-7225

e-mail: メールアドレス

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