1)エナメル上皮腫のWnt、Shh-Ptchシグナル系を用いた遺伝子診断
 エナメル上皮腫は、日本人におけるもっとも発生頻度の高い歯原性腫瘍であり、本腫瘍の局所での侵襲性には様々な程度のものが存在するにもかかわらず、従来の病理組織学的分類との対応はなく、治療法選択のための診断基準は明確ではなかった。そこで我々は、類似の腫瘍において変異が報告されたCTNNB1とPTCH1とに着目し、解析を行っている。その結果、叢状型のエナメル上皮腫においてCTNNB1のリン酸化部位にSerがCysに置換する変異を見出し、またPTCH1の5´側非翻訳領域に認められるCGG繰り返し配列がエナメル上皮腫の発症に関連することを見出し報告してきた(Kawabata,et al., 2005)。我々は、Wnt, Shh-Ptchシグナル系とエナメル上皮腫との関係を更に詳細に解析することにより、エナメル上皮腫に対する全く新しい診断法を導入することを目指している。
2)顎関節疾患に対するANKHを用いた遺伝子診断
 関節疾患においても、関節炎の発症と直接関わる遺伝子として、ank geneが同定され、以後急速にヒト関節疾患との関わりが解析されてきた。近年、関節軟骨部にカルシウム結晶が沈着し、関節炎を発症する家族性軟骨石灰化症の原因遺伝子としてank geneのヒト相同遺伝子であるANKHの変異が報告され、また強直性脊椎関節炎の発症に関わる遺伝マーカーとしてANKHのプロモータ領域の遺伝子多型が報告された。我々は、ANKH遺伝子と顎関節症との関係を詳細に解析することにより、不明な点の多い顎関節症の発症の分子メカニズムの一端を明らかにし、顎関節症に対する全く新しい診断法を導入することを目指している。
3)基底細胞母斑症候群(NBCCS)のPTCH1を用いた遺伝子診断
 NBCCSは、母斑性基底細胞上皮腫が、頚部・上腕・体幹・顔面に多発し、癌化していく疾患で、顎の多発性角化嚢胞を伴うことが多い(約90%)。また、口唇・口蓋裂や皮膚のpitなどの比較的軽症の先天奇形を示すこともある多臓器疾患である。原因遺伝子として癌抑制遺伝子のPTCH1が発見され、家族性腫瘍に属する疾患である。しかし、まだ十分な症例数が検討されたとは言えず、とくに本邦ではほとんど解析されていないのが現状である。いわゆるASCO(アメリカ臨床がん学会)の分類でも、Group3の臨床的意義が十分確立していないものに属しており、今後の臨床的検討が必要である。我々は日本人症例における、変異同定率、Genotype-Phenotype関連性などを明らかにし、患者・変異キャリアにおける最も有効な臨床管理方法の確立を目指している。