口腔外科学講座は昭和25年1月31日、初代故美濃口玄名誉教授によって開講された。講座開設に先行する附属病院での診療科の設置は昭和19年8月17日にさかのぼる。
 初代美濃口教室の時代には十分な研究設備、資材が乏しかったにもかかわらず、在任中に京都大学口腔科学紀要を発行し、歯科学、口腔科学、口腔外科学に及ぶ多方面での研究がなされた。
 美濃口教授の定年退官に伴い昭和47年8月1日付で故小野尊睦教授が2代目教授に就任した。大学紛争のあと荒廃した研究室を再建し、研究を継続、発展させるとともに、口腔外科学に新たな一分野を定着させた。また教室で行われていた高分子化合物の医歯学的応用に関する研究は昭和49年4月1日設置の医用材料学講座の新設に発展し、さらに当該講座は発展的に解消、現在の再生医科学研究所に引き継がれる。故小野教授は昭和55年に顎関節研究会(現日本顎関節学会)の設立に加わり、その発展に寄与するとともに、昭和57年には顎変形症研究会(現日本顎変形症学会)を主催、発足させ、顎変形症研究会会誌を発刊した。また、在任時代に講座の英文名称を「Stomatology」から「Oral and Maxillofacial Surgery」に変更し、臨床と研究の方向性を口腔顎顔面外科に関するものへとその指針を示した。
 3代目教授には昭和63年4月1日付で飯塚忠彦名誉教授が就任した。現代の口腔外科学講座は口腔と顎の機能、それに関わる病態を基礎的に研究し、外科的に治療を行うための講座といえる。研究領域は基礎、臨床医学に加えて歯科医学的手法、バイオマテリアルを用いる工学的手法による幅広い分野が対象とした。
 現在、4代目教授として別所和久教授が平成17年8月1日付で就任した。
現在の主な研究課題は1)歯の再生と口腔顎顔面疾患の分子生物学的研究2)種々のベクターを用いた骨形成因子(BMP)遺伝子導入による骨形成に関する実験的研究、3)再生歯科ならびに顎顔面再建のためのインプラントに関する基礎的臨床的研究、4)顎関節、口腔癌、顎変形症の基礎的臨床的研究、ならびに5)咀嚼、顎運動、咀嚼筋緊張異常と高次脳機能に関する研究などである。
現況を紹介する。口腔顎顔面疾患の分子生物学的研究では各種の症候群における原因遺伝子を用いた遺伝子診断研究に加え、顎関節疾患や顎変形症に対する遺伝要因を解明するため、候補遺伝子による遺伝子多型の解析、また分子発生学的手法を用いた歯の再生研究を進めている。骨形成因子関連の研究では、独自に作製したBMP発現アデノウイルスベクターやエレクトロポレーションを利用したBMP発現プラスミドベクターでの遺伝子導入に成功を収め、有用な骨再生方法を開発した。歯科インプラントの基礎的臨床的研究では人工歯根による顎顔面再建時の動特性に関する工学部精密工学教室との共同研究、人工歯根の応用による顎顔面再建法の研究が工学部、再生医科学研究所との共同研究がなされ、さらにGBR法と骨膜培養を組み合わせて硬組織再生を実験的に成功させた。顎関節の機能と病態に関する研究では基礎的には微量滑液分析、滑膜細胞の継代培養が行なわれ、さらに顎関節疾患の遺伝子診断を目指して遺伝子実験施設との共同研究が行われている。口腔癌に関する研究では、concurrent radiochemotherapyに関する放射線科との共同研究、部位別、進行期別口腔癌の長期生存率と癌宿主特性に関する研究がなされている。顎変形症の外科的治療に関する研究では顎骨延長に関する基礎的臨床的研究が進められている。この他、咀嚼筋緊張異常による睡眠時無呼吸、顎口腔ジストニアに対する高次脳機能の研究が脳病態生理学、高次脳機能総合研究センターとの共同研究、その臨床的応用として下顎前方移動装置による上気道の拡大と効果に関する研究などが行われている。