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肝臓は旺盛な再生能力を持った臓器です。私は、劇症肝炎の診療から肝再生のメカニズムに興味を持ち、1986年に血漿交換で得られた劇症肝炎患者血漿から世界に先駆けて肝細胞増殖因子(hepatocyte growth factor: HGF)を単離・精製しました。HGFは肝臓の最も強力な再生因子ですが、これまで多くの研究者によって基礎研究が進められ、抗アポトーシス作用や抗線維化作用といった多彩な作用も明らかにされています。
一方、HGFの臨床応用として、私たちは特異性の高い抗ヒトHGFモノクローナル抗体を作製し、血清HGF測定系を確立しました。血清HGF濃度は種々の肝疾患、特に劇症肝炎で上昇し、その測定は劇症化予知や予後予測に有用とされて保険適応となっています。さらに、最近では簡便な半定量キットも開発しその普及を目指しています。
さらなる私たちの目標は、治療薬としてHGFを臨床応用することです。私たちは製薬会社と共同で組換えヒトHGFタンパクの医薬品化に取り組んできました。人体に投与可能な医薬品レベルの組換えヒトHGFの供給体制が確立されたことを受けて、ヒトへの臨床応用を目指したHGF肝再生医療プロジェクトがスタートしました。まずは、HGF発見のきっかけとなった劇症肝炎を対象とした臨床試験を、医薬品として承認申請を目的とした「治験」の枠組みで実施すべく準備を進めてきました。国内外未承認の新しい試験薬である組換えヒトHGFの治験計画を、私たち医師が主体となって作成し、厚生労働省に治験届を行うことには多くの困難がありました。しかし、多くの方々のご協力を得て、また数々の厳しい審査を経て、ようやく2005年9月から医師が主導する第I・II相治験として開始できるようになりました。
重篤な患者さまを対象とした治験ですのでその実施には困難が予測されます。しかし、新たな治療法開発が診療の現場で真に望まれているこのような難治性の疾患であるからこそ、私たち臨床医が医学者として高い理想を掲げ、治験の正当性、安全性に関する厳しい審査を経て、客観的で透明性のある「治験」として実施することに意義があると考えています。HGFは肝臓以外の臓器にも多彩な作用を発揮しますので、この治験において安全性、臨床効果が確認されれば、他の難治性疾患への新たな治療法開発に発展していくことが期待されます。
救命率の低い劇症肝炎患者さんの診療(bedside)から始まったHGFの発見と研究は、多くの基礎研究(bench)の成果を得て、今まさに治療薬としてbedsideに戻ろうとしています。
坪内博仁
プロジェクトリーダー(京都大学医学部附属病院探索医療センター 特任教授)
鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 消化器疾患・生活習慣病学 教授
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