教授からのご挨拶

 
 

ご挨拶


 麻酔科学は、手術の痛みを除く、あるいは手術中の意識をなくすことにより、手術を円滑に行うことを大きな目標として発展してきました。現在では、手術、外傷、感染など、数多くの侵襲(ストレス)に対する生体反応をコントロールすることにより、生体に生じる傷害を軽減することが麻酔科学のテーマであると考えます。当教室の名称を「侵襲反応制御医学」としたのも、このような考えに基づきます。私たちの教室がカバーする臨床領域は、麻酔、集中治療、疼痛治療(ペインクリニック)に分かれます。

 手術のための麻酔が安全であるべきことは当然です。しかし、これからの麻酔臨床ではただ安全に手術を終わらせるだけではなく、麻酔の質の向上を目指さなければなりません。どのような症例に対しても痛みのない快適な術後状態が得られるよう、きめ細かい麻酔管理を追究していきたいと考えています。

 ICUにおける呼吸、循環、代謝を中心とする全身管理は、重症患者の救急救命医療において求められる基本的役割です。生命維持に必要不可欠な全身管理がなされた上で各診療科の専門医が協力して高度な診療を行うのが、理想的な救急救命医療です。ICUにおける全身管理に習熟した麻酔科医あるいは集中治療医を育成することで、救急医療の充実に貢献していきたいと思います。

 痛みは多くの患者さんが訴える症状で、痛みを治療することは臨床医学の究極の目標とも言えます。いろいろな原因による痛みの治療、すなわちペインクリニックは、麻酔科臨床の大きな柱です。術後痛、癌性疼痛を含む疼痛コントロールを徹底することによって、各診療科患者のQOLの向上に貢献することができます。痛みの原因は様々で、麻酔科だけではなく、精神科、神経内科、整形外科などの協力による集学的治療が必要です。痛み治療の専門家として痛み治療チームの中心となれるような麻酔科医を養成したいと思います。

 研究面では、多くの重要な課題が残されています。たとえば、我々が日常的に患者さんに投与している吸入麻酔薬は、亜酸化窒素(笑気)の使用開始から約150年間にわたって使われています。その間、多くの研究者が吸入麻酔薬の作用機構を解明しようとしてきましたが、未だに完全な解明には至っていません。これは現代科学の大きな謎の一つに数えられています。これらの重要な課題を解決することに挑戦することは、現代の麻酔科医に与えられた使命であり、非常にやりがいのあることです。

 以上のような目標を達成するためには多くの麻酔専門医を養成しなければなりません。近年、麻酔科医の需要が増加し、供給を上回る状態、すなわちマンパワー不足が深刻な問題になっています。マンパワー不足を解消することが急務ではありますが、臨床医学としての麻酔科学のレベルを向上させる絶好の機会であるとも考えられます。麻酔科医の道を選択して京大麻酔科に入局した皆さんには、手術室での麻酔管理だけではなく、ICUにおける全身管理、ペインクリニックにおける疼痛管理もバランスよく修得し、希望者には研究に参加する道を開くような卒後研修プログラムを提供していきたいと思います。そして、そのような諸君の中から将来の日本と世界の麻酔科学をリードする人材が育つことを期待しております。


2006/07/20

麻酔科教授 福田和彦

kfukuda@kuhp.kyoto-u.ac.jp