京都大学医学部附属病院耳鼻咽喉科・頭顎部外科

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高度難聴と人工内耳

本邦で人工内耳手術が行われるようになってから、すでに20年以上が経過しました。その間人工内耳をとりまく社会環境は変化し、現在は高度感音難聴に対する標準治療のひとつとなりました。内藤先生が「高度難聴と人工内耳」を書かれた1999年からも様々な変化が起こりました。

人工内耳手術症例のうち小児例の占める割合は徐々に増加し、当院では手術の半数以上は小児例で、小児例の総数が250例を超えています。手術年齢も低年齢化し、2014年2月には日本耳鼻咽喉科学会の小児人工内耳適応基準が見直されました。2014年7月からは、低音に聴力が残っている方に対する人工内耳手術も開始されています。人工内耳の機器も多様化しており、現在は日本ではアドバンストバイオニクス社、コクレア社、メドエル社の3社の人工内耳が使用可能です(人工内耳センターのページに現在使用されているものの写真が紹介されています)。言葉の符号化法も、ACE法、CIS+法、HiResolution法が開発されています。

人工内耳はこのような変化を遂げましたが、内藤先生の原稿に記載された人工内耳のメカニズムには大きな変化は無く、また人工内耳の抱える倫理的問題点と歴史的経緯は、いまだ重要な意味を持っていると考え、そのままの文章を掲載しています。そのため、内容は必ずしも最新のものではないことをご了承ください。

人工内耳適応基準については、最新のものを掲載しました。

(山本典生)


高度難聴と人工内耳

京都大学大学院医学研究科 聴覚・言語病態学領域 講師(当時)

内藤 泰

(本稿は、日本財団の援助を受けて社団法人全日本難聴者・中途失聴者団体連合会により出版された「補聴援助システムとリハビリテーション」において 著者が担当した「人工内耳」の章、及び本庄 巖編著「人工内耳」(1999年、中山書店刊)の著者担当部分に一部、追加、修正を加えたものである。)

 私が医師になり、はじめて難聴の患者さん達と接するようになった頃、難聴の医療にはいつもある種の無力感が伴っていました。それは、どのような理 由にせよ、両方の耳が高度の感音難聴になり、補聴器でも言葉が聞き取れなくなると患者さんには「あきらめて下さい」と説明するしか方法がなかったからで す。高度感音難聴あるいは聾という、とてつもなく高く厚い壁の前で患者さんと医師は、ただただ呆然と立ち尽くすしかなかったのです。ところが、1980年 代の後半になって人工内耳が出現し、この壁が打ち砕かれ、我々の前に新しい道が切り開かれました。もちろん、当初は人工内耳の効果も限られたもので、なか なか満足のできるような性能ではありませんでした。しかし、その後も着実に機器の改良が進み、現在では、平均的には、静かな所で1対1なら十分に会話が出 来るまでになっています。しかしながら、残念なことに人工内耳という医療は未だに難聴者とそれをとりまく医療、リハビリテーション関係者のすべてに正当に 評価され、支持されているとはいい難いのが現状です。もちろん人工内耳の性能には限界があり、手術にともなうリスクもあります。しかし、そのような点を考 慮しても、人工内耳は適切な適応のもとに使用されれば、音声言語によるコミュニケーションの獲得あるいは再獲得に貢献するすばらしい医療であると断言でき ます。人工内耳を望むか望まないかは、最終的には難聴者本人(幼児ならその両親)が判断することですが、その際には是非、公平で現実的な知識に基づいて判 断していただきたいのです。

 以上の様な観点から、ここでは人工内耳が補聴器とどう違うのか、どのような人に人工内耳がすすめられるのか、大人と子どもでは人工内耳の使用を考 える上でどのような違いがあるのかについて述べたいと思います。これらの事を充分に理解していただくためにはコトバの聞こえのしくみや人工内耳の原理など についても基本的なことを知って置く必要がありますので、この項の前半はこれらの基礎的な知識の解説に充ててあります。しかし、まず実用的な側面を知りた い場合はこれらの基礎的解説をとばしていただいてもかまいません。

 補聴器と人工内耳は何か全く別のものであると考えておられる方も多いと思いますが、実際には難聴者の音声言語(話しことば)によるコミュニケー ションを助けるという意味では、全く同じ目的をもつ機器であり、決して対立するものではありません。つまり、人工内耳は高度難聴者用の「補聴器」の一種と 位置づけるのが最も妥当と考えます。本稿の解説が少しでも多くの難聴者とその援助に携わる方々の人工内耳に対する理解に役立ち、この医療を必要とする方々 が、この医療によって享受できる恩恵を正当に得られるようになる事を心から願っております。

 

 

最終更新:2016年7月6日 21:22

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