
医学は応用科学である。二十一世紀の内科学は分子遺伝学、分子生物学、細胞生物学、発生学等の生命科学の飛躍的進歩を踏まえて、未踏の領域に踏み込みつつある。一方、臨床研究者を取り巻く環境に困難な状況が生じつつある。即ち、疾患の成因や病態、診断、治療について実験的研究を遂行すること(Disease-Oriented Research, DOR)と患者のケアを通して行う臨床研究(Patient-Oriented Research, POR)の両立が極めて困難になりつつあることである。米国では、DORとPORの両立を指向するPhysician ScientistまたはClinician Scientist(臨床医科学者または科学的臨床医)の最も権威ある学会であったAmerican Society of Clinical Investigation (ASCI)/Association of American Physicians (AAP)/American Federation for Medical Research (AFMR)の合同年次総会の参加者数が減少している。
内科学における研究は疾患指向研究(Disease-Oriented Research, DOR)と患者指向研究(Patient-Oriented Research, POR)よりなる。生命科学の進歩に基盤をおくDORの発展とそのスピードアップは、患者のケアを伴うPORとの両立を困難にしており、DORとPORの双方を指向する臨床医科学者または科学的臨床医は、DORのみに集中出来る基礎医学研究者に比較して多くのハンディキャップを負っている。しかし、二十一世紀の内科学は基礎研究やDORの発見を臨床応用に展開する Discovery-Based Medicineを実践する展開研究(Translational Research)と大規模臨床研究によるEvidence-Based Medicine(EBM)が両輪となって発展すると考えられる。即ち、展開研究が新しい医療を提案し、検証されてEBMになる。
展開研究の成功には基礎研究、DOR, PORのバランスのとれた共存が必須であり、従って単に基礎医学研究者と臨床医が一時的に協力するのではなく、継続的にこの両者のかけ橋となるPhysician Scientistの貢献が不可欠である。
二十一世紀の新しい内科学の中核となるのは展開研究とEBMである。展開研究とEBMの実践には基礎研究、DOR, PORを持続的に指向するPhysician Scientistが大きく貢献するものと期待される。一方、大規模臨床試験の成果より構築されるEBMの確立も重要課題である。京都大学EBM共同研究センター長としてEBMに関与するようになってまだ期間は短いが、大規模臨床研究であるCASE-J研究の実践で得られた経験と実績は貴重なものであった。
今後、二十一世紀の臨床研究の両輪である展開研究(Translational Research)とEBMの推進に貢献するPhysician Scientistと専門医の育成が大学院大学病院の内科教室の重要課題であると考えている。
教授 中尾 一和


