消化器病学 S5-25

講義内容             膵疾患の外科治療

日時                     20071102

 

              奇形 

              外傷

              炎症

              腫瘍

 

膵臓の解剖

 

 

 

十二指腸乳頭部癌

概念: 十二指腸乳頭部に原発する癌。 早期より黄疸などの症状が出現し、切除しやすいため予後良好である。 ただし潰瘍形成した腫瘍は予後不良.

症状: 早期より黄疸が出現。黄疸は消長する。

            Courvoisier徴候=胆道の閉塞により緊満した胆嚢を触知すること。

検査所見

            便潜血陽性

            変動する高ビリルビン血症

            消化管内視鏡直視

            低緊張性十二指腸造影 hypotonic duodenography =乳頭部の不整像や腫瘤陰影

合併症 :膵炎

治療 幽門輪温存膵頭十二指腸切除術 pancreatoduodenectomy

                    (膵頭十二指腸切除術)

 

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膵臓

 

膵臓の解剖・発生

       概念

L1L2の高さで、胃の背面を横に走り、後腹壁に接着する。

膵頭 膵体 膵尾 主に内分泌機能を営む。

脈管 動脈 膵頭部は胃十二指腸動脈および上腸間膜動脈から、膵尾部は腹腔動脈・上腸間膜動脈・総肝動脈などから栄養される。

主膵管 duct of Wirsung 膵臓の導管の主管であり、終りは総胆管と合して大十二指腸乳頭に開く。

副膵管 Santorini

 

 

 

 

膵臓の機能

膵疾患の診断の手順

 

 

膵臓の奇形

       輪状膵

       完全に閉塞しないと、十二指腸下行脚狭窄像

       完全に閉塞していると、double bubble sign

 

       軽度通過障害: 対症療法

       通過障害顕著: 外科治療

       (十二指腸十二指腸吻合 duodenoduodenostomy

       (胃空腸吻合術 gastrojejunostomy

 


 

 

       迷入膵(副膵,異所性膵 aberrant pancreas

Heinlich分類

I: 膵島、腺房細胞、導管を有す.

II: 腺房細胞、導管を有する

III: 導管のみを有する(もっとも多い)

症状 :一般に無症状である。

 

       膵管胆道合流異常

概念:膵管と胆管が十二指腸乳頭括約筋の支配を受けないで十二指腸の壁外で合流している先天的な発生異常をいう。 東洋女性に多い。

病態生理:十二指腸乳頭括約筋の支配を受けないため、胆管に膵液が逆流したり、あるいは膵管に胆汁が逆流し、胆管拡張症・ 胆管炎・閉塞性黄疸・急性膵炎などさまざまな病態を惹起する。

合併症:先天性胆道拡張症,胆管癌(胆道拡張を伴なう症例に多い),胆嚢癌 (胆道拡張を伴なわない症例に多い)

治療:外科切除が原則となる。

 

              総胆管拡張症

概念 :先天性胆道拡張症のひとつであり、先天的に総胆管が嚢状に拡張した疾患である。 アジア、なかでも日本に多い。

原因:膵管胆管合流異常による膵液逆流説が通説である。

症状 30歳までに発症することが多い。 腹痛,黄疸 ,上腹部腫瘤

検査所見 :腹部エコー,総胆管の拡張を認める。 ERCP所見 =総胆管の拡張および胆管膵管合流異常が認められる。

合併症 :急性膵炎 ,胆道系悪性腫瘍 ,胆嚢癌 ,胆管癌

 

              膵管癒合不全(divism

 

 

膵損傷

概念 :膵臓は後腹膜臓器であるため比較的損傷を受けにくい臓器ではあるが、後腹膜に固定されているため移動性に乏しく、 腹壁からの外力で脊椎に挟まれて高度の損傷を受けることがある。

症状 :しばしば重大な膵損傷があっても合併損傷臓器による症状に隠されてしまう。 ショック症状 =出血性ショックあるいは急性膵炎によってショックに陥る。

検査所見 :腹部CTが有効。

合併症 仮性膵嚢胞 ,膵膿瘍

治療

                  開放性損傷では全例が手術適応となる

                  非開放性損傷では総合的に開腹術の適応を決定する。

                  開腹術 =止血・壊死組織除去・膵液のドレナージ。

 

20歳女性 後ろから押され、柵に腹部を強く押しつけた。

入院時

 

受傷6週後

 

5ヶ月後

EUS


内瘻化

 

 

 

膵炎

       急性膵炎

       慢性膵炎

 

急性膵炎

概念 :膵臓腺房細胞の障害によって消化酵素が流出する、外分泌組織の急性炎症である。中高年の男性に好発する。 ほとんどが自然治癒するが、MOFDICなどの重篤な合併症を来たすことがある。 特に感染や血腫を合併した場合は外科手術の適応となる。

 

病因

アルコール

胆石症 :胆石が総胆管と膵管の合流部である共通管に嵌頓すると、オッデイ括約筋の逆流防止機能が障害されて胆汁が膵管 内に逆流する(胆汁逆流説)。緊急手術の適応となる。

薬剤

フロセミドなどの利尿剤

テトラサイクリンなどの抗生物質

エストロゲン

ERCP:過度な造影剤の注入は急性膵炎を惹起するため禁忌である。

高脂血症

高カルシウム血症 :膵管にカルシウムが沈着して閉塞を来たす。

腹部外傷

 

症状

急激な心窩部痛。 心窩部の腹痛

Cullen(カレン)徴候:膵臓周辺に染み出た血性滲出液が皮下に移動し、臍周辺の皮膚が暗赤色に染まる。 DICを合併しやすい徴候である。

Grey-Turner徴候 :側腹部の皮膚着色斑をいう。

食欲不振 :膵外分泌不全による消化機能障害に起因する。

低カルシウム血症 

 

検査所見

尿中アミラーゼの増加

血液検査

炎症所見

血小板減少

低カルシウム血症

高窒素血症

高血糖

高脂血症

逸脱酵素の増加

血清アミラーゼ高値

血中エラスターゼ高値

LDH上昇

腹部CT所見

急性期の重症度判定に有効であり、膵腫大・内部不均一・滲出液貯留の項目で判定する。

膵腫大

滲出液貯留 pancreatic ascites

後腎傍腔への液体貯留 fluid collection

胸水貯留

腎筋膜の肥厚

膵仮性嚢胞 pancreatic pseudocyst

腹部X線所見

sentinel-loop sign :階段状の niveau を持った小腸イレウス像が膵臓を取り囲むように映る。

colon cut-off sign :膵臓に接した横行結腸が蠕動運動を低下させたために、横行結腸内に見られたガス像が脾彎曲部において突如と して途切れる。

腹部エコー

浮腫状に腫大した膵臓

      

       合併症

早期合併症

閉塞性黄疸

汎発性腹膜炎

多臓器不全 MOF

DIC

後期合併症

膵仮性嚢胞pancreatic pseudocyst :感染によって膵膿瘍に移行.特に5cm以上の嚢胞は減圧術の治療の対象。

膵膿瘍 :嚢胞への感染によって形成され、緊急に開腹ドレナージの必要。

 

急性膵炎の治療

        概念

原則として内科的治療で対処する。

       外科治療

感染を合併した場合や血性滲出液によって血腫を形成した場合は保存療法が無効なため、外科手術の適応となる。 また胆石症によって急性膵炎となった場合も、手術によって緊急に胆石の嵌頓を解除する必要がある。

膵部分切除術

膵壊死部摘除術 ネクロゼクトミー

ドレナージ :術後に開腹創を閉鎖せずに感染巣の浄化を徹底するために行なう。

 

慢性膵炎 chronic pancreatitis

       概念 :長期間の炎症によって膵実質細胞が破壊され、膵臓の線維化が起こったもの。 初期には外分泌能が障害され、進行すると内分泌能も障害されて糖尿病を合併する。

       病因

アルコールの多飲,男性に多い。

特発性,特に女性に好発。

胆石症

急性膵炎から発症することはまれ

       症状

心窩部痛

吸収障害

下痢と体重減少

脂肪便 steatorrhea

糖尿病症状

        検査所見

腹部単純X線写真 :進行例では膵臓の石灰化像(膵石)が見られ、確定診断となる。

腹部CT所見 膵石や膵臓の石灰化が見られ、膵臓全体は萎縮している。 仮性膵嚢胞

ERCP :膵癌との鑑別が困難な症例に施行される。 典型的には拡張した膵管が蛇行し、そのなかに膵石や protein plug が見られ、確定診断となる。膵癌では閉塞部位よりも下流の膵管は正常。

膵臓の逸脱酵素 血清リパーゼ上昇 ,血清トリプシン減少 20mg/dL以下の所見は慢性膵炎に特徴的である。

膵外分泌機能検査

セクレチン検査

BT-PABA試験

糞便中脂肪定量

経口ブドウ糖負荷試験 OGTT

       合併症

糖尿病

膵仮性嚢胞

膵石,膵石灰化

       治療

内科的治療

低脂肪食

胃酸分泌抑制薬

 

       外科手術

膵管減圧術

膵管空腸吻合術 Roux-en-Y膵管空腸側々吻合)

膵管開口部形成術

膵切除術

病変が限局している場合に適応となる。

膵尾側切除術

膵頭十二指腸切除術

 

慢性膵炎の手術            

              Roux-en-Y膵管空腸側々吻合

 

膵頭部の仮性嚢胞

 

  

治療後

 

膵石,膵石灰化

       概念

慢性膵炎の合併症として特徴的である。その主成分は炭酸カルシウムである

 

 

膵嚢胞(仮性嚢胞,真性嚢胞)

 

       仮性膵嚢胞 :内腔が上皮ではなく結合組織で覆われるもので、真性嚢胞に比べて圧倒的に多い。 しばしば急性膵炎が原因となり、自然に消失することが多い。

       真性膵嚢胞 :内腔が上皮で覆われるもので、上皮から癌化することがある。

腫瘍性嚢胞=腺房細胞や膵管上皮細胞を発生母地とする腫瘍。 嚢胞腺腫 cystadenoma solid and cystic tumor ,嚢胞腺癌

非腫瘍性嚢胞 =先天性嚢胞 ,貯留嚢胞,鬱滞嚢胞 ,寄生虫性嚢胞,真性嚢胞は癌化する危険があるため、原則として外科的に切除する

 

 

膵腫瘍

       浸潤性膵管癌(予後不良,膵腫瘍の90%以上)

       膵管内乳頭粘液性腫瘍(腺腫・腺癌)(IPMN)

       漿液性嚢胞腺腫(SCT)

       粘液性嚢胞腫瘍(腺腫・腺癌)(MCN)

       腺房細胞腫瘍

       膵内分泌腫瘍

 

膵臓の腫瘍

       良性腫瘍

漿液性嚢胞腺腫(SCT

膵管内乳頭粘液性腺腫(IPMNの良性) 鑑別は困難

粘液性嚢胞腺腫 MCNの良性)

膵内分泌腫瘍の良性のもの

 

        悪性腫瘍

膵癌

膵管癌ductal cell carcinoma

膵管内乳頭粘液性腺癌性IPMNの癌)

粘液性嚢胞腺癌MCNの癌)

腺房細胞癌, acinar cell carcinoma

膵内分泌腫瘍の癌islet cell carcinoma

グルカゴノーマ glucagonoma

インスリノーマ insulinoma

ソマトスタチノーマ somatostatinoma

ガストリノーマ gastrinoma  Zollinger-Ellison症候群

未分化癌

 

 

膵頭部癌 carcinoma of the head of the pancreas

       概念

膵頭部に発生する癌腫であり、多くは膵管上皮細胞から発生する膵管癌である。

       症状

黄疸

上腹部痛

Courvoisier徴候

       検査所見

内視鏡的逆行性胆道造影 ERCP :膵管の壁不整や閉塞が見られる。膵液貯留によって膵管の拡張。 総胆管を閉塞すると拡張した総胆管が認められる。

腹部CT所見 :膵頭部が腫大し、腫瘤は形状が不整で内部不均一。

典型的な膵頭部癌

腫瘍マーカー CEAをはじめ CA19-9 DUPAN-2 の上昇が見られる。早期には陽性になりにくい。

血管造影所見:無血管野 avascular area ,病巣には血管が乏しく、病巣周囲では腫瘤による血管の圧排が見られる。

逸脱酵素 :血清アミラーゼ高値

 

       治療

外科的切除

膵頭十二指腸切除術 pancreatoduodenectomy (PD) : 膵頭部切除と十二指腸全摘に加えて胃亜全摘・総胆管切除・胆嚢摘出を行なう。 本症をはじめとして、十二指腸乳頭部癌や下部胆管癌などが適応となる。

(全胃)幽門輪温存膵頭十二指腸切除術 pylorus-preserving ancreatoduodenectomy (PPPD)

 

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膵頭十二指腸切除術PD

 

 

 

Whipple手術(1943年)

 

 

 

 

膵体尾部癌 carcinoma of the body and tail of the pancreas

       概念

膵頭部癌と比べて症状が不定で、診断された時点で進行した症例が多い。

       症状

上腹部痛あるいは背部痛が主な症状となる。膵頭癌と異なり、黄疸は生じにくい。

       検査所見

CT:

典型的な膵尾部癌

腹部血管造影 :脾動脈抹消に不整な狭窄像 encasement が見られる。

ERCP所見 :膵管の閉塞や閉塞より抹消側膵管の拡張が見られる。

 

治療

              膵体尾部切除術

 

 

 

 

腫瘍性嚢胞

              膵管内乳頭粘液性腫瘍 (intraductal papillary mucinous neoplasm, IPMN

                             主膵管型

                             分枝型

 

主膵管型

 

分枝型

 

 

液性嚢胞腫瘍(mucinous cystic neoplasm, MCN

benign

 

 

malignant

 

 

 

膵内分泌腫瘍 Islet cell tumors of the pancreas

       概念

膵内分泌器官に原発した腫瘍で、良性・悪性の別を問わない。

       種類

インスリノーマ

ガストリノーマ

グルカゴノーマ

ソマトスタチノーマ

WDHA症候群, VIPoma

       多発性内分泌腺症,MEN

        検査所見

血管造影所見 :膵癌と異なり、造影にて濃染される。

 

インスリノーマ insulinoma

        概念

膵臓β細胞に由来し、インシュリンの過剰分泌により低血糖をもたらす膵内分泌腫瘍である。 膵内分泌腫瘍としては最も頻度が高いが、多くは単発性で悪性化傾向は低い。

       症状

肥満 :慢性的な低血糖状態に置かれるため、過食して肥満となる。

Whippleの三徴

空腹時や運動時の意識障害 syncope

空腹時低血糖 hypoglycemia

ブトウ糖投与による劇的改善

慢性低血糖症

急性低血糖症のような著明な症状はなく、性格変化や異常行動などの精神症状を来たす。 インスリノーマに典型的な症状である。

       検査所見

絶食試験

血中Cペプチド高値

腹部CT所見 hypervascular の所見

選択的動脈内カルシウム注入試験selective arterial calcium injection test, SACI test

 

       治療

原則として腫瘍核出術を行なう。

外科的治療

      腫瘍核出術

      腹腔鏡下摘出術

 

 

 

グルカゴノーマ glucagonoma

       概念

ランゲルハンス島のα細胞に由来する、グルカゴン産生腫瘍である。

       症状

糖尿病症状が主症状である

壊死性遊走性紅斑 necrolytic migratory erythema

口内炎

正球性貧血

       検査所見

高グルカゴン血症

低アミノ酸血症

高血糖


ガストリノーマ gastrinoma, Zollinger-Ellison syndrome

       概念

ガストリン産生腫瘍によってガストリンが過剰に分泌され、その結果、胃酸の過剰分泌によって吸収障害を来たした 疾患である。 腫瘍は多発性かつ悪性であることが多い。

       病態生理

十二指腸潰瘍

難治性潰瘍

吸収障害

       症状

空腹時の上腹部痛

水様性下痢

 

        検査所見

ガストリン高値

セクレチン試験

基礎胃酸分泌量が上昇する。

消化管造影で潰瘍

選択的動脈内セクレチン注入試験selective arterial secretin injection test,  SASI test

 

       治療

腫瘍切除術,薬物療法

 

WDHA症候群,VIPoma

       概念

VIPホルモンを過剰に産生する膵腫瘍である。VIPはもともと膵臓のホルモンではないため、異所性ホルモン分泌腫瘍 である。

       症状

水様性下痢

胃無酸症 achlorhydia

       検査所見

VIP血症

低カリウム血症 hypokalemia

        治療

外科療法

薬物療法 =ソマトスタチン誘導体を投与する。

 

ソマトスタチノーマ somatostatinoma

       概念

ソマトスタチンの過剰分泌により糖尿病・下痢・胆石症などをきたす膵島腫瘍である。 高率に肝転移を生じる悪性腫瘍である。

        治療

腫瘍が膵島に限局していれば外科的切除の対象となるが、多くの場合はすでに転移を完了しており、化学療法ならび に放射線療法が施行される。

 

 

膵の手術

       膵嚢胞の手術

       膵管消化管吻合術:膵管減圧術 decompression of the pancreatic duct,膵液流出障害を改善し、膵管内圧を低下させる目的で行なう。 主に乳頭部狭窄や主膵管狭窄を伴なう慢性膵炎が適応となる

       膵切除術(PD,PPPD,DP,分節切除)

       膵全摘術(TP)

 

PD=pancreatoduodenectomy

        概念 :膵頭部切除と十二指腸全摘に加えて胃亜全摘・総胆管切除・胆嚢摘出を行なう。 十二指腸乳頭部癌をはじめとして、膵頭部癌・下部胆管癌などが適応となる。

膵頭部切除

十二指腸全摘

胃亜全摘 :幽門側胃切除を行なう。ただし近年では下部胆管癌や乳頭部癌では幽門輪温存が行なわれることがある。

総胆管切除 胆嚢摘出

 

       再建法

Child :膵空腸端々吻合、胆管空腸吻合、胃空腸吻合の順で行なわれる。

Whippe (胆管,膵,胃)

Cattell (胃,膵,胆管)

今永法(胃,膵,胆管)

 

       合併症

膵空腸縫合不全 ,致命的となりうる。

 

鏡視下膵体尾部切除術

 

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