研究概要

 表皮生物学
  生物の最外層をおおう表皮の役割とその仕組みについて研究しています。

 1.表皮と炎症
  皮膚炎は本来、皮膚の防御的・修復的反応です。内外からさまざまな侵襲を受けたとき、それぞれを排除するために最適の反応が誘導されます。 その病的な模倣が炎症性皮膚疾患といえます。表皮が炎症の方向付けにどのように関わるのかを研究しています。


Dainichi T, Hanakawa S, Kabashima K. J Dermatol Sci 2014, 76(2):81-9.

 2.表皮の自己免疫
  表皮の分子結合が自己免疫によって傷害され、水疱を生じるのが、自己免疫性水疱症です。自己免疫は、免疫寛容と呼ばれる仕組みによって厳格に抑えられています。 なぜ、特定の分子でだけ免疫寛容が破たんして水疱が生じるのかを研究しています。

3.表皮の形成機序
  表皮は、他の大部分の上皮組織とは異なり、細胞が分化しつつ重層化して形成されます。これは、幹細胞が縦方向に非対称に分裂することで担われていると考えられています。 そのスイッチがどこから入るのかについて研究しています。



 皮膚炎症の発症および慢性化のメカニズム
  人体は物理的バリアと免疫システムによって微生物による感染症から守られています。皮膚は、重要な物理的バリアであると同時に、リンパ球、マクロファージ、樹状細胞、 肥満細胞などの免疫細胞を保有し、多彩な免疫応答を誘導することが可能な免疫臓器でもあります。皮膚における免疫応答は、微生物などの外来抗原の排除に働く一方、 過剰あるいは異常な応答は、皮膚炎症の発症や慢性化につながります。現在、こうした病態のメカニズム解明をめざし、研究を進めています。



 IgE産生の制御メカニズム
  外来抗原に対するIgE産生は通常厳密にコントロールされていますが、時に過剰に産生されると喘息、鼻炎、食物アレルギー、アナフィラキシーなど様々なアレルギー性疾患 をひきおこします。近年、皮膚を介した抗原曝露や慢性皮膚炎の存在が、こうした病的IgE産生を引き起こす重要な原因であることが分かってきました。しかし一方で、 IgEは外来抗原に対する皮膚の免疫応答が正常におこるために必要であることも知られています。こうした功罪併せ持つIgEの産生が、生体内でどのように制御されているかについて 研究を行っています。



 皮膚免疫・炎症の生体イメージング
免疫反応・炎症などの様々な生命現象は、多種の細胞が動的に絡み合い形成される、極めてダイナミックな現象です。従来、それら動的イベントの詳細は、組織切片の解析から推測する のみでした。しかし、近年の技術の進歩により、生体内での細胞動態を直接的に観察(生体イメージング)することが可能となってきました。動画(生体イメージング)からは、静止画 では得られない、多くの情報がもたらされます。私たちは、様々な皮膚免疫反応・炎症の生体イメージングを行うことで、病態形成メカニズムの本質を明らかとすることを目標に、 研究を進めています。


図2 :表皮細胞(赤色)とランゲルハンス細胞(緑色)の可視化例。




図3:皮膚構造の三次元的可視化例。ランゲルハンス細胞が緑色、その他の皮膚構成細胞が赤色に描出されている。



図4:定常状態皮膚の真皮樹状細胞(緑色)の生体イメージング例。



図5:接触性皮膚炎におけるT細胞(赤)とランゲルハンス細胞(緑)の生体イメージング例。



 皮膚炎における好塩基球の役割
  好塩基球が、近年、アトピー性皮膚炎をはじめとする慢性アレルギー炎症において、重要な働きをすることが報告されています。
  当研究室では、外来抗原曝露に対してTh2型免疫応答が優位に傾く(skewing)ときに、好塩基球がどう寄与するかについて研究を行ってきました。 好塩基球は、皮膚感作に応じてハプテン抗原やペプチド抗原に対しては単独でもTh2型免疫応答を誘導できるが、タンパク質抗原に対するTh2型免疫応答の 誘導は出来ないことを明らかにしました(下図)。1)さらに好塩基球が皮膚への好酸球の浸潤と活性化に線維芽細胞と協調して関与していることを明らかにしました。 2)好塩基球や好酸球がかゆみの誘発・増悪に関与しているかについて研究しています。


1.) Otsuka A, Nakajima S, Kubo M, Egawa G, Honda T, Kitoh A, et al. Nature communications 2013, 4: 1738.
2.) Nakashima C, Otsuka A, Kitoh A, Honda T, Egawa G, Nakajima S, et al. J Allergy Clin Immunol 2014, 134(1): 100-107. e112.


2.悪性黒色腫に対する免疫療法の作用機序

  皮膚悪性黒色腫は、「ほくろのがん」であり、進行期になると有効な治療がほとんどありませんでした。
  2014年、ヒトが元来もつ免疫の力を高めることで抗腫瘍効果を発揮する抗PD-1抗体という薬剤(ニボルマブ)が悪性黒色腫に対して日本で承認 され、一定の効果を挙げ、がん治療分野のパラダイムシフトとなりました。この治療法が画期的だった理由は、手術や抗がん剤、放射線といった従来のがんの 治療法とは全く異なる、「自分の免疫を使ってがんを克服する」という作用機序(下図)の治療法が現実的に可能となったという点です。
  当研究室では、これまで蓄積してきた皮膚免疫学分野のノウハウを生かし、悪性黒色腫さらに基底細胞癌における免疫学的な
解析を行っています。 3) 4)


3) Otsuka A, Dreier J, Cheng PF, Nageli M, Lehmann H, Felderer L, et al. Clin Cancer Res 2015, 21(6):1289-97.
4) Gehrke S, Otsuka A, Huber R, Meier B, Kistowska M, Fenini G, et al. J Dermatol Sci 2014, 74(2): 167-169.