2023年3月13日
1.概要
京都大学医学部附属病院は、一次治療(標準治療)開始前の切除不能進行・再発固形癌症例に対し、がん遺伝子パネル検査(FoundationOne® CDxがんゲノムプロファイル)を用いて、初回治療法選択におけるがん遺伝パネル検査の臨床的有用性を検証することを目的に、先進医療Bとして国内5施設(愛知県がんセンター、和歌山県立医科大学附属病院、富山大学附属病院、東京大学医学部附属病院、東京医科歯科大学病院)とともに臨床研究を実施してきました。令和5年3月9日、厚生労働省先進医療技術審査部会での審議後に本研究の総括報告書が公開されましたので、その内容を下記の通り発表いたします。
2.背景
がんは遺伝子の異常でおきる疾患で、最近は個々の遺伝子の変異に対する治療薬が開発され治療成績が向上しています。これまでは、それぞれの遺伝子異常をひとつずつ調べていましたが、次世代シークエンサー(NGS)を用いたがん遺伝子パネル検査により、一度にたくさんの遺伝子変異を調べることが可能になりました。
わが国では、がん遺伝子パネル検査が2019年6月から保険診療で実施できるようになりましたが、その適応は「標準治療がない、もしくは終了した(終了見込み含む)症例」に限られています。そのため、がん遺伝子パネル検査の結果に基づく治療薬へのアクセスは、全身状態の悪化で治療をうけられない場合があることや、標準治療がない、もしくは標準治療終了見込みの状況から実施に治療をうける場合は治験や先進医療など臨床試験で実施されている薬剤に限定されてしまうなど、治療に繋がる割合が低いことが課題とされています。実際、厚生労働省第4回がんゲノム医療中核拠点病院等の指定要件に関するワーキンググループ資料では、がん遺伝子パネル検査に基づいた治療は約6.8% (830/12,263)にとどまっています。
一方で、世界的には、一次治療(標準治療)を開始する前、または治療中にがん遺伝子パネル検査を実施することが推奨されています。がん医療におけるがん遺伝子パネル検査のコンセプトは、最新の遺伝子解析技術を用いて、初回治療選択時に症例毎にがん細胞の遺伝子異常をプロファイリングし、効果が期待できる治療を提供するとともに、効果の期待出来ない無駄な治療を回避することです。また、がん遺伝子パネル検査には、コンパニオン診断が搭載されており、初回治療選択時にコンパニオン診断に基づく治療に役立たせたり、がん遺伝子プロファイリングに基づく臨床試験に参加する計画が立てやすいなど、その機能が最大限に発揮されることが重要です。
この先進医療Bでは、当院を含む国内6施設において、消化器がん、肺がん、乳がん、婦人科がん(子宮、卵巣)、悪性黒色種を対象に、「化学療法未施行の切除不能進行・再発固形癌に対するマルチプレックス遺伝子パネル検査の有用性に関する臨床研究(FIRST-Dx 試験)」を先進医療で実施しました。
3.経過
令和2年11月30日 | 京都大学大学院医学研究科・医学部及び医学部附属病院 医の倫理委員会より承認 |
令和3年 3月11日 | 厚生労働省先進医療技術審査部会に本研究計画を提出 |
令和5年 3月 9日 | 厚生労働省先進医療技術審査部会にて本研究総括報告書の審議 |
4.臨床研究の概要
1.試験名:化学療法未施行の切除不能進行・再発固形癌に対するマルチプレックス遺伝子パネル検査の有用性評価に関する
臨床研究
2.目的:薬事既承認のがん遺伝子パネル検査(FoundationOne® CDxがんゲノムプロファイル)を用いて、初回治療法選択
における遺伝子パネル検査の臨床的有用性を検証する。
3.試験デザイン:多施設共同前向き観察研究
4.対象疾患:全身化学療法未施行の切除不能進行・再発癌(消化器・肺・乳腺・婦人科・悪性黒色腫)症例
5.主要評価項目:コンパニオン診断を含むActionableな遺伝子異常を有する症例の割合
6.対象被験者数:180例
7.試験概要(下図)
5.臨床研究実施体制
〇 研究者代表者:
京都大学医学部附属病院 腫瘍内科 武藤 学 教授
〇 研究事務局:
京都大学医学部附属病院 腫瘍内科 松原淳一 講師
京都大学医学部附属病院 腫瘍内科 向井久美 特定職員(臨床検査技師)
〇 調整事務局:
株式会社インテージヘルスケア 臨床開発部 服部舞衣子
〇 分担研究機関:
愛知県がんセンター、和歌山県立医科大学附属病院、富山大学附属病院、
東京大学医学部附属病院、東京医科歯科大学病院
6.結果の概要
本研究では、専門家による会議(エキスパートパネル)による推奨治療が約61.0%(105/172)に認められ、観察期間中央値7.9ヶ月と短いものの、実際にエキスパートパネルによる推奨治療を約19.8%(34/172)の患者さんに提供できました。この割合は、現在の保険診療の条件である標準治療終了後のタイミングより約3倍と高く、初回のがん薬物治療選択におけるがん遺伝子パネル検査の有用性が示されたと考えます。
7.今後の発表予定
本成果は3月16日から福岡で開催される第 20 回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2023)で発表する予定です。