生殖・妊よう

昨今の晩婚化に伴い不妊カップルが増加しており、不妊治療とりわけ生殖補助医療(ART)を受ける方が増えています。現在、一年間で出生する児の20人に1人は体外受精児です。もはや特別な治療ではなくなりつつあります。

当院に受診される方は他院で難治性の不妊症と診断された方や、内科的合併症を持つ方もおられますが、一般的な不妊症検査、不育症検査など様々な病状に対する検査も行っております。また治療についてはタイミング療法、人工授精なども積極的に行っています。不妊治療は個々の患者さんによって治療方法を変化させる要素が強いと考えており、だからこそ患者一人一人と相談しながら、その患者さんに寄り添った治療を考えています。また、子宮筋腫、子宮内膜症、子宮腺筋症などの婦人科疾患を合併していることで妊娠に至らない方に対しては、腹腔鏡手術や開腹手術を含めた手術療法を行っています。

また、顕微授精(ICSI)を含めた体外受精-胚移植(ART)も行なっています。当院では近年体外受精患者数は増加しており、2017年の体外受精の妊娠率は29.2%でありました(下図参照)。

当院における体外受精成績

また、着床不全を原因とする難治性着床障害(当院では形態良好胚を3回以上移植しても妊娠しない)患者さんについては自己末梢血リンパ球(PBMC)を用いた免疫治療を行っており、2017年2月からは再生医療法申請・許可(再生医療等提供機関)のもと、厳密な管理のうえ開始しており、良好な結果であります。

着床不全を原因とする難治性不妊症患者に対する自己末梢血リンパ球を用いた免疫療法

末梢血リンパ球(PBMC)投与イメージ

さらに、小児・若年がん患者の妊孕性温存療法にも積極的に取り組んでいます。集学的治療(手術、抗がん剤、放射線治療)に伴い、小児・若年がん患者の予後は飛躍的に改善しています。一方で性腺(卵巣・精巣)は治療によるダメージを受けやすく、ダメージが強い場合には、不妊(早発閉経や無精子症)となります。そのため、治療の開始前および抗がん剤治療の寛解期に卵子凍結、卵巣組織凍結や精子凍結を行っています。更に京都府内のがん治療施設とも積極的に連携を取り合い、がん治療を遅らせない取り組みを行っています。

タイミング療法、人工授精

日本産科婦人科学会では、不妊について「妊娠を望む健康な男女が避妊をしないで1年妊娠をしないものというのが一般的である」と定義しています。結婚して1年経過された妊娠を望むカップルにはご自身達の現在の状況を正しく知るために、ぜひ一度受診していただけたらと思います。

当科の基本的な方針として個々の患者に応じた段階的な不妊治療を心がけ、一人ひとりにきちんとした説明を行ったうえで、検査及び治療に臨んでいます。一般的に、初診で来られた場合には原因検索を目的としたスクリーニング検査を行い、タイミング療法、また人工授精などから段階的に治療を開始します。治療はそれぞれのカップルごとの状態に合わせてオーダーメイドに行なって行きます。他院で治療をされていた場合は、その結果も十分考慮にいれた上で不妊治療の計画を立てていきます。

体外受精−胚移植(ART)

顕微授精(ICSI)を含めた体外受精-胚移植(ART)も行なっています。2017年の胚移植の成績は全体で全体で29.1%の妊娠率であり、この妊娠率は対象症例に難治性不妊患者が多いことを考えると、良好であると考えられます。また凍結胚盤胞移植における妊娠率は、32.8%で日本産婦人科学会のデータと比較しても遜色はありません。更に形態良好胚の胚移植を行ってもなかなか妊娠に至らない方(着床不全症例)に対しては、当院における倫理委員会の承認のもと、子宮内膜自己リンパ球(PBMC)投与も積極的に行っており、妊娠率は29症例中10症例(34.5%)と良好な成績を残しております。

体外受精-胚移植(ART)へ入る前には、不妊治療専門看護師によるカップル個別での説明会、および治療中には専門看護師による、個別の相談やカウンセリングも行っています(有料)。

がん患者及び膠原病患者における妊よう性温存について

若年者のがんや膠原病の治療により、妊よう能(将来妊娠する力)が失われる可能性があります。最近では、若年者がん診療の飛躍的進歩によってがん患者の予後が改善してきており、がんを克服した患者の治療後の生活の質(QOL=quality of life)にも注目されてきました。その中で若年性がん患者及び膠原病患者における「化学療法・放射線療法に伴う早発閉経」に対する予防的治療にも積極的に取り組んでおります(日本がん・生殖医療研究会)。私たちは、原疾患の治療が最優先であることを前提に、将来妊娠する可能性を残すことを目的として、京都府内の関係診療科のがん治療専門医と連携して(京都・がんと生殖医療ネットワーク(KOF-net))、卵子凍結・卵巣組織凍結を含む様々な方法で、がん・生殖医療を実践しています。平成29年11月には、平成29年4月に遡り京都府内に在住の卵子凍結・卵巣組織凍結を行なった患者さんに京都府より助成金が支給される運びとなりました。(『京都府がん患者清書機機能温存療法助成事業について』)
また、男性がん患者の精子凍結も行います。

合併症のある患者様へのご対応

子宮筋腫、子宮内膜症、子宮腺筋症などの婦人科疾患を合併していることで妊娠に至らない方に対しては、十分な検討の上、腹腔鏡手術や開腹手術を含めた手術療法を行っています。特に子宮内膜症合併不妊患者における術後累積妊娠率の検討では、卵巣予備能(卵子を作る力)が良好である35歳以下では、積極的に手術加療を行うことで、自然妊娠を目指す場合でも良好な成績を得ております(下図参照)。

腹腔鏡手術は内視鏡認定医も数人在籍しており、手術により妊孕性を低下させないような治療を心がけています。また、着床に障害をきたす子宮筋腫核出術さらに、広範囲な子宮腺筋症に対する腺筋症核出術(3-flap法)も行っております。このような個々の患者さんの状態に応じた手術加療を行うことで良好な成績、そしてより安定した妊娠経過を提供できるようになってきました。

また、婦人科疾患以外の自己免疫疾患、糖代謝異常、内分泌異常などの内科疾患などをお持ちの方であっても、他科とも常に連携を取りながら、妊娠の可否を判断し不妊治療に取り組んでおります。

不妊治療において妊娠はゴールではなくスタートであることを常に意識し、妊娠初期より産科分娩部とも密な連絡を取り、治療に臨んでおります。

京都大学医学部附属病院産科婦人科