京都大学医学部附属病院では、令和5年12月10日に発売された新規アルツハイマー病治療薬レカネマブの使用について検査から治療後の対応まで当院で適正に実施できるように体制を整えております。レカネマブはアルツハイマー病の脳内に蓄積する病因タンパク質(アミロイドβタンパク質)を除去し、認知機能低下の進行を抑制することが示された点滴治療薬ですが、早期アルツハイマー病患者さんに使用できる治療薬であり、厚生労働省の「最適使用推進ガイドライン・レカネマブ」に従い、詳細な検査と正確な診断、病状や副作用について患者さんや介護者(家族など)の方の注意深い観察、密な定期通院が必要となります。
当院でレカネマブ治療を希望される患者さんの受診予約からの流れを説明させていただきます。 なお 初診を含む以下のレカネマブ診療に係る来院は原則ご家族など介護者の同伴が必須となりますので、ご留意ください。
1.予約から受診まで
まず脳神経内科初診外来を予約・受診いただきます。
■ 当科に初めて患者さんを紹介される場合
紹介医の先生はまずレカネマブ紹介事前チェックシートをご記入ください。必要項目をすべて満たす場合、紹介状(診療情報提供書)とともに、地域連携室(電話075-751-4320、FAX 075-751-3115)へ電話・FAXで脳神経内科初診外来をご予約ください。なお事前チェックシートで必要項目を全て満たさない場合はレカネマブの適応基準から外れることが推定されますので、ご了承ください。脳神経内科もの忘れ外来が混み合っている場合は脳神経内科一般外来で初回の診察をさせて頂きます。
■ 当院で脳神経内科以外の診療科に通院中の患者さんを紹介される場合
担当の先生はまず前述のレカネマブ紹介事前チェックシートをご確認ください。必要項目をすべて満たす場合、通常の他科依頼(脳神経内科宛)の手続きを進めてください。なお当科もの忘れ外来が混み合っている場合は当科一般外来で初回の診察をさせて頂きます。
■ 当院の脳神経内科に通院中の場合
患者さんは直接脳神経内科担当医にご相談ください。
2. スクリーニング検査について
まず初回診察にて病歴聴取、一般神経学的診察を行い、認知機能低下の有無やその程度が軽度認知障害(MCI)または軽度認知症のレベルかを確認いたします(中等度以上の認知症はレカネマブの適応はございませんので、ご了承ください)。
MCIから軽度認知症のレベルが疑われる場合、レカネマブ適応一次検査に進んでいただくため、当院で血液検査、脳MRI、脳血流シンチグラフィなどの検査を予約し、当科もの忘れ外来を予約受診いただきます。一次検査に進めない場合は通常のもの忘れ診療の対応となります。
3. レカネマブ適応一次検査について
事前に実施いただいた脳MRIや脳血流シンチグラフィに加え、もの忘れ外来で行う詳細な認知機能検査の結果に基づき、もの忘れの原因がアルツハイマー病以外の場合や原因がアルツハイマー病であっても認知症の程度が中等度以上の場合、脳MRIにおいてガイドラインで定められている治療による副作用のリスクが高い所見を認めた場合、レカネマブ投与の対象外と判定されます。対象外と判定された場合、従来の抗認知症薬や介護保険制度を利用したサービス利用の適応などを含め通常の診療を提供させていただくか、紹介元の診療機関に検査結果や治療方針を報告し、診療を継続していただきます。レカネマブによる治療の対象の可能性があると判断された場合、詳細な検査を実施するため以下の二次検査へ進んでいただきます。
4. レカネマブ適応二次検査について
厚労省が定める最適使用推進ガイドラインに基づき、レケンビⓇの投与対象者は詳細な各種検査による①アルツハイマー病の正確な診断と②障害の程度が軽度認知障害(MCI)または軽度認知症のレベルに留まっていることの確認が必須となります。①のための検査として、アミロイドPETという核医学検査と脳脊髄液検査があり、当院では両方の検査が行える体制を整えております。②については詳細な認知機能検査に加え、患者さんや家族などの介護者からの詳細な問診に基づく生活機能評価が必要となります。これらの二次検査をスムーズに実施するために、当院では2泊3日程度の短期検査入院(一般入院検査、脳脊髄液検査、詳細な認知機能検査と生活機能評価など)や外来でのアミロイドPETを基本とする方針としております。
5. 二次検査を踏まえた判定結果の説明
当院では上記の二次検査の結果も踏まえ、外来主治医と院内の専門家で構成されるレカネマブ適応判定チームで検討の上、判定結果を外来主治医より患者さんとご家族にお伝え致します。この時点でスムーズにいけば初診から約3ヶ月後となりますが、検査が混雑する場合、適応判断が難しく追加検査を要する場合などはさらに期間を要することもありますのでご了承ください。レカネマブの適応ありと判定されたら、外来主治医よりレカネマブ投与により期待される点、副作用などのリスク、投与開始後の密な定期通院の必要性などを説明文書に基づいて説明いたします。
6. レカネマブ投与について
4.の説明を熟考いただいた上、投与を希望され説明文書の内容にご同意いただける場合は、文書同意取得のうえ、ご家族・介護者など付き添いの方と同伴の上、当科外来で1時間程度の点滴治療を2週間ごとに行います。投与開始後数か月は脳浮腫や脳出血などの副作用が生じる可能性が高いため、投与開始後2ヶ月、3ヶ月までを目安に脳MRI 検査を行います。これらの副作用の程度によっては休薬や入院治療を要することもあります。 原則、投与開始6ヶ月までは当院で点滴を実施し、その時点で臨床症状の評価を行い、引き続き投与継続となる場合は近医でレカネマブ点滴を行っていただきます。レカネマブ投与期間中は6ヶ月ごとに有効性および安全性の評価を行い、投与継続を判断します(本剤の投与は原則18ヶ月までとなります)。
以上が基本的な流れとなりますが、全国的にもレカネマブ診療目的の受診希望者数に比し、専門的な検査や診察の枠、点滴スペースに限りがある状況となっており、当院においてもご予約でお待ちいただくことが想定されます。何卒ご理解を賜りますようお願い申し上げます。
