2020 年11月25日
概要
京都大学医学部附属病院クリニカルバイオリソースセンターを含む、日本の主要なバイオバンク注1を運用する7機関注2は、共同で全国のバイオバンクの保有する試料・情報を一括で検索するバイオバンク横断検索システムをバージョンアップしたバイオバンク横断検索システム第2版を公開しました。
産業界やアカデミアの要望を受けて、試料品質管理情報・同意情報の項目を新たに追加しています。品質管理および同意に関する項目はそれぞれ国際的な標準準拠しました
本開発により、バイオバンクの利用者は民間企業による研究開発利用が可能かどうかや、試料の品質を確認しながら、バイオバンク・ネットワークが保有する総計約42万人から提供された約85万検体の試料、約20万件の解析情報を横断的に検索することが可能となりました。
本研究開発によりゲノム医療の研究開発に必要な試料・情報へのアクセスが大きく加速することが期待されます。
本開発は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)による支援を受けて行われています
今回のアップグレードで追加された情報
●試料品質管理情報
検索対象に追加した試料の品質管理に関する項目は以下の通りです。
各項目についてはSPREC, BRISQ, CAP注3の各標準に準拠しました。
試料品質管理情報項目 | 説明 |
---|---|
Storage period | 保管期間 |
Storage temperature | 保管温度 |
Storage container | 保管条件(容器の種類) |
Time before pre-processing | 採取から処理開始までの状態(時間) |
Collection container | 採取容器の種類 |
Temperature before processing | 採取から処理開始までの状態(温度) |
Cold ischemia time | 冷阻血時間(摘出から固定開始までの時間) |
Fixation time | 固定時間 |
Fixation type | 固定方法 |
Numbers of freeze/thaw cycles | 凍結融解回数 |
Derived sample | 由来試料 |
Nucleic acid extraction method | 核酸抽出の方法(抽出方法) |
Nucleic acid extraction kit | 核酸抽出の方法(キット) |
Storage solution | 保管媒体 |
SOP violation | SOPからの逸脱 |
DUOコード項目 | 説明 |
---|---|
DUO:0000021 (IRB) | 倫理審査委員会による承認が必要(IRB approval required) |
DUO:0000018 (NPU) | 非営利団体による非営利目的の非商用利用のみに限定(not for profit use only) |
なお、これらの項目の追加は、本開発の過程で、日本製薬工業協会や日本臨床検査薬協会の加盟企業に協力を求めた調査等から特に要望が高かったものとして行われました。
今回のアップグレードに合わせて行われた更新
① バイオバンク試料・情報の利活用のための情報の充実
バイオバンクリソースの利活用を促進するため、その利用方法をガイドしたバイオバンク利活用ハンドブックも、新たにバイオバンク運用側を対象とした記載を充実させた第2版が発行され、バイオバンク横断検索システムのウェブサイトからダウンロードできるようになっています。
本ハンドブックは、本横断検索システムを開発したAMED ゲノム医療実現推進プラットフォーム事業ゲノム研究プラットフォーム利活用システムの領域 A 課題 2「倫理的・法的・社会的側面からみたバイオバンク資源利活用促進戦略」(研究開発代表者:東京医科歯科大学 吉田 雅幸教授)により制作されています。
② ウェブサイトの更新
バイオバンク横断検索システムをより使いやすくご利用いただけるように、デザインや構成を改善しました。
全てのページで英語・日本語のコンテンツを用意し、ボタン表示で切り替えられるようにしました。
またデータの更新日を表示し、今後は様々な情報をウェブサイトのお知らせを主軸に発信していきます。
これまでの経緯
本研究開発は平成 27~28 年度に AMED ゲノム医療実現推進プラットフォーム事業で実施された研究開発「バイオバンク横断型の試料・情報検索システムの基盤構築とプロトタイプ開発」の成果を活用し、平成 30 年度より同事業のゲノム研究プラットフォーム利活用システムの領域A課題 1 として開始しました。
バイオバンク横断検索システムは、「バイオバンク横断型の試料・情報検索システムの基盤構築とプロトタイプ開発」の研究開発課題のプロトタイプ開発を受けて、東北大学東北メディカル・メガバンク機構によって開発・運用されてきた統合データベース dbTMM をベー スとして初版が開発され、2019年 10 月 28 日に発表されました。(参考参照)
バイオバンク横断検索システムは、下記のバイオバンクが保有する試料・情報に 関する分散データベースを横断して検索することができます。
●検索対象のバイオバンク
(1)3大バイオバンク
(2)診療機関併設型バイオバンク
上述のうち、(2)の①~③は、AMED ゲノム医療実現推進プラットフォーム事業ゲノム研究プラットフォーム利活用システムの領域 Bから参画しています(「診療機関併設バイオバンクのネットワーク参画」(研究開発代表者:京都大学 武藤 学教授)、「東京医科歯科大学疾患バイオリソースセンターのネットワーク参画」(研究開発代表者:東京医科歯科大学 稲澤 譲治教授)、 「臨床研究活性化を目的とした研究支援型バイオバンクの構築」(研究開発代表者:筑波大学 西山 博之教授))。
前述の領域A課題2によるバイオバンク利活用ハンドブック等の掲載と合わせ、本研究開発課題では、複数の課題間の協力・連携を強化して取り組んでいます。
なお各バイオバンクの詳細は、初版発表時のプレスリリース資料(参考参照)及び、各バイオバンクのウェブサイト等をご参照下さい。
今後の展開
バイオバンク横断検索システムは、対象となるバイオバンクが試料・情報の収集・保管を拡大していくのに合わせて、検索対象も順次拡大しています。
今後も更なる拡大を続け、我が国におけるヒト試料・情報の利活用の効率的な推進の基盤としての役割を果たしていきます。
また、新規の機能として、コーディネート機能の実現とマッチング支援を検討しています。
特に、アカデミアや企業の研究者がバイオバンク横断検索システムを利用して必要な試料を希望する際に、ニーズに最も適合した試料・情報の迅速な入手をコーディネートするウェブ申請システムの設計を検討し、マッチング支援を実装していくことを計画しています。
こうした拡充や機能充実を通じて、ゲノム医療研究開発や創薬開発に必要となる多様な試料や情報が効率よく利活用されるために、わが国のさまざまな特徴あるバイオバンクのネットワーク形成と、横断的な試料の利活用、データシェアリングを促進し、ゲノム医療に必須の社会インフラとしてのバイオバンク・ネットワークへ継続的な成長に寄与していきます。
【AMEDゲノム医療実現推進プラットフォーム事業バイオバンク横断検索システム】
サイト名:AMEDゲノム医療実現推進プラットフォーム事業バイオバンク横断検索システム
言語:英語 ・日本語
URL:http://biobank-network.jp
参考
〈バイオバンク横断検索システム 初版プレスリリース〉
バイオバンク横断検索システムの運用開始~国内のバイオバンク7機関で保有する65万検体の試料・20万件の情報が一括で検索可能に~
https://www.amed.go.jp/news/release_20191028-01.html
<研究プロジェクトについて>
バイオバンク横断検索システムは、AMEDのゲノム医療実現推進プラットフォーム事業(ゲノム研究プラットフォーム利活用システム)の研究開発事業の一環として、ゲノム医療実現推進に向けたバイオバンク・ネットワークを構築して、バイオバンクの利活用を促進することを目指しています。
用語説明
注1)バイオバンク
生体試料を収集・保管し、研究利用のために提供を行う仕組み。
注2)日本の主要なバイオバンクを運用する7機関
注3) SPREC、BRISQ、CAP
注4)Global Alliance for Genomics & Health (GA4GH)
国際標準の倫理的な配慮の下、各国間でゲノムデータを共有することによりゲノム情報を用いた医療や医学の発展を目指す国際協力組織。
注5)Data Use Ontology (DUO)
データ共有のための技術標準の一つ。
GA4GHの活動の一つであるData Use & Researcher Identities(DURI)Work Streamにて開発された。