2021年9月24日
概要
京都大学医学部附属病院(以下「京都大学」という。)は、本年4月より川崎重工業株式会社(以下「川崎重工」という。)およびシスメックス株式会社(以下「シスメックス」という。)と共同で、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策を目的とした大規模全自動PCRロボットコンテナの社会実装に向けた有用性評価」(以下「共同研究」という。)に向けての準備を行って参りましたが、7月末日を以って共同研究を終了することとなりました。
(参考)2021.4.21プレスリリース https://www.kuhp.kyoto-u.ac.jp/press/20210421.html
本共同研究では、川崎重工、シスメックスおよび株式会社メディカロイドが開発した「全自動ロボット式PCR検査システム(以下「本システム」という。)」の性能評価、臨床的有効性評価を行うとともに、被検者もしくは被検者の検査を行う検査実施機関からの検査依頼、検査結果の報告、フォローアップまでを含めた大規模PCR検査業務設計(以下「PCR検査社会実装」という。)の評価を行うことと致しましたが、研究に提供された本システムへのコンタミネーション(汚染)が明らかとなり、結果として当初予定した共同研究の実施に至ることが出来ませんでした。
《本システムへのコンタミネーション(汚染)について》
本システムを京都大学医学部附属病院に設置し、動作確認を終了した後に稼働前精度確認のための初回検査を行なったところ、陰性コントロールを用いた測定結果が陽性と判定されました。原因究明のために、本システムにおけるコンタミネーション(汚染)の原因が想定される全ての部位の拭い取り試験を行った結果、複数の部位において本システムで検出対象としている遺伝子(不活化され、感染の危険性はないもの)とB2M(内部標準物質)が検出されました。
これらの結果から、本システムを京都大学に搬入する前に上記のコンタミネーション(汚染)があったことが判明し、そのキャリーオーバーが、稼働前精度確認検査における陰性コントロール検体偽陽性判定の原因であることが明らかとなりました。研究の実施のためには本システム全体からの除染が不可欠であり、京都大学の指導の下に除染チェックリスト、除染マニュアルおよび感染対策マニュアルの作成を行い、それらを基に除染活動を進めて頂きましたが、マニュアル作成から除染完了までには約1.5ヶ月の期間を必要と致しました。
川崎重工およびシスメックスには、感染対策マニュアル、コンタミネーション防止マニュアル、除染マニュアルを用いた教育研修の実施と技能評価を行うことにより、コンタミネーション防止の徹底と発生した際の速やかな除染が行える体制作りを行うと同時に、PCR検査精度管理の基本事項の教育研修と技能評価を通じて精度の高い効率的なPCR検査の社会実装に取り組まれるよう提言を致しました。
京都大学から川崎重工、シスメックスへの提言
1.大規模全自動PCRロボットコンテナの社会実装については、トレーラーの設置・テント設営、稼働前検証に要する期間の短縮と外気温の変化が大きい四季を通じてPCR検査の精度管理に重要な温度管理の重要性を提言致しました。
2.本学の指導の下に検査前工程、検査工程、検査後工程の手順と工程管理および精度管理を踏まえた検査標準作業書の作成並びに点検を行い、本システム上の各検査工程プロセスにおける 品質・精度管理手法の強化に関して提言致しました。
3.精度管理において、衛生検査所の精度管理責任者や指導監督医等が精度管理評価と検査工程管理を一元的且つリアルタイムに管理出来る仕組みにより精度の高い検査結果を随時報告することの重要性を提言致しました。
4.PCR増幅曲線の解析において、一部解析プログラム等に課題による不必要な再検等を行う場合が生じ、その原因の究明と改善を課題として提言致しました。
共同研究総括
2019年に出現したCOVID-19の世界的流行に対する有効な感染対策を講じる上で精度の高い効率的なPCR検査実施基盤の必要性は高く、共同研究を行った川崎重工およびシスメックスの我が国における国産初の大規模全自動PCRロボットシステム開発の取り組みについては敬意を表するところであり本共同研究の意義は高かったと考えております。
しかしながら、提供された本システムにPCR検査の最大の課題であるコンタミネーション(汚染)が判明したことから、本共同研究で掲げました『被検者を対象とした臨床評価、疫学的評価、そして社会実装に関する総合的評価』に至ることが出来ませんでした。
現在我が国においては新型コロナウイルスに対するワクチン接種が進められている一方で人流増加と変異種による第5波感染拡大が広がり、緊急事態宣言発令とまん延防止等重点措置の中で様々なイベントによる人流増加によるさらなる感染拡大が懸念されております。
感染対策と経済・社会活動の両立を果たすための有効な手段の一つとしてPCR検査の必要性が益々高まっており、川崎重工およびシスメックスには、今回の提言に基づく精度の高い、そして効率的なPCR検査システムの提供と社会実装を通じて国民の安心安全な暮らしへご貢献されることを期待いたします。