2021年4月21日
概要
京都大学医学部附属病院は、川崎重工業株式会社およびシスメックス株式会社と共同で、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策を目的とした大規模全自動PCRロボットコンテナの社会実装に向けた有用性評価」(以下、「共同研究」という。)を開始します。
本共同研究では、川崎重工業株式会社、株式会社メディカロイドおよびシスメックス株式会社が開発した「全自動ロボット式PCR検査システム(以下、「本システム」という。)」の性能評価、臨床的有効性評価を行うとともに、被検者もしくは被検者の検査を管理する検査機関からの検査依頼から検査結果の報告、フォローアップまでを含めた大規模PCR検査業務設計(以下、「PCR検査社会実装」という。)の評価を行い、京都の地域医療と感染対策の強化、国家の感染対策と経済・社会活動の両立に必要なPCR検査の社会実装有用性を評価します。今後、本研究の検証結果をもとに、COVID-19の臨床検査、クラスター発生地、感染ハイリスク者のスクリーニング、疫学調査、空港検疫や大規模イベント等への迅速な大量検査体制の提供や、感染対策と社会活動の両立が期待されます。
背景
2019年に出現したCOVID-19の全世界的流行は、WHOより2020年3月11日にパンデミック宣言がなされ1年以上が経過した現在も、収束の目途が立たないまま継続しています。日本国内においても2020年1月に感染者が確認されたことを皮切りに、感染患者の蔓延、院内(施設内)感染の多発など深刻な状況となり、3月に新型インフルエンザ等対策特別措置法の適用の下に、同年4月7日には第1回目の緊急事態宣言が発出されました。5月25日の緊急事態宣言解除後も、第2波、第3波と感染拡大が続き、2021年1月8日~3月21日には2回目となる緊急事態宣言が発令されました。現在も、新規感染者の発生は下げとどまらず、その間に発生した多くの変異種による感染拡大も始まっています。
その一方で、COVID-19感染対策の有効な手段としてのPCR検査は、一般入院患者の入院適用の判断などの診療ニーズのみならず、行政検査に対しても供給能力に課題が有り、十分に利用出来る状況ではありませんでした。現在、診療現場では、感染症の診断や治療のためのPCR検査体制は整ってきましたが、感染対策への有効な取組みを推進する上で必要な、集団リスク・経済リスクの高い無症状陽性者の動向把握のためのPCR検査数は未だに十分とは言えない状況です。今後、第4波の感染拡大対策や新たなパンデミックへの対応としても、エッセンシャルワーカー、地域コミュニティ、組織、イベント等、社会が必要とする場所へのPCR検査体制の提供が不可欠です。
共同研究の目的と概要
本システムは、コンテナを用いた移動式で、1日あたり最大2,500検体の検査を完全自動化できるほか、随時検体投入後約80分で、迅速に検査を行う能力を有します。
・研究目的
1 行政検査および自費検査目的のPCR検査を機動的かつ大規模に提供する本システムの検査精度、性能、大量処理パフォーマンス評価とともに被検者もしくは検査依頼機関からの検査依頼から検査結果の報告とフォローアップを含めた「PCR検査社会実装」の有用性評価を行う
特に国民の生活に不可欠なエッセンシャルワーカーの方々を対象としたPCR検査、豊かな健康と生活に必要なスポーツ大会、芸術等の大規模イベント開催の為のヘルスケア目的のPCR検査の実現を目指し、「PCR検査社会実装」の有用性評価を行う
2 京都市の地域医療としての感染対策強化、国家の感染対策と経済・社会活動の両立を果たす行政検査においても「PCR検査社会実装」の有用性評価を行う
・研究概要
①「京大病院と京都市による包括連携協定の締結」注1に基づき、行政検査としてこれまで感染研法等の試薬・機器を用いて実施・蓄積されて来たPCR検査保存検体を用いて、本システムと新規承認試薬によるPCR検査の実施を行い、主に臨床的感度・特異度等の臨床的評価を行う。
②行政検査として被検者、行政機関、協力医療機関に対する検査依頼から検査結果の報告とフォローアップを含めた「PCR検査社会実装」の有用性評価を行う。
③京都大学の学生・教職員を対象としたヘルスケア目的のPCR検査において検査依頼から検査結果の報告とフォローアップを含めた「PCR検査社会実装」の有用性評価を行う。
経過と今後のスケジュール
2021年4月5日
コンテナを京大病院敷地内へ設置・周辺設備調整
2021年4月中旬
コンテナ内ロボット装置始業点検と大量検体連続投入試験を実施中
2021年4月下旬
本システムの基礎性能評価と保存検体を用いた臨床評価を開始予定
2021年5月上旬
京都大学の学生、教職員を対象としたPCR自費検査を開始予定
検査結果の報告とフォローアップを含めた「PCR検査社会実装」評価を実施予定
研究体制
研究代表者:
京都大学医学部附属病院検査部・感染制御部 教授 長尾 美紀
京都大学医学部附属病院クリニカルバイオリソースセンター 特任病院教授 田澤裕光
研究分担:
京都大学医学部附属病院検査部・感染制御部 准教授 松村 康史
京都大学医学部附属病院検査部・感染制御部 講師 山本 正樹
共同研究先:
川崎重工業株式会社(東京都港区海岸1丁目14番5号)
シスメックス株式会社(兵庫県神戸市中央区脇浜海岸通1丁目5番1号)