背景
京都大学はiPS細胞を用いた様々な疾患の治療や、免疫機能のがん治療への応用等の、最先端の診断・治療法に関する臨床研究において世界をリードしています。 この度、共同研究を担う京都大学医学部附属病院クリニカルバイオリソースセンターは、高品質な生体試料を早期臨床開発に供する日本でも屈指のバイオバンク注4であり、 生体試料の採取・前処理・保管に関する最先端の洗練された知見とノウハウを有しております。
また、PSSは長年にわたり、生体内高分子であるタンパク質、抗体、核酸の分離・抽出技術(Magtration Technology)を中核として、 イムノアッセイや全自動PCR検査システム(geneLEAD等)、試薬の開発を行い、各種の製品を販売してきました。さらに分子生物学の研究の発展に伴い、 エクソソーム、糖鎖等を標的とした単離・精製とゲノム解析システム開発にも鋭意取り組んでいます。
詳細
このたび、京都大学とPSSは、それぞれの持つ知見や技術、ノウハウを融合して、近年がん領域の臨床研究で注目されている体液や組織中に存在する免疫担当細胞、 診断・治療に有用な目的細胞や生体分子を高品質で効率的に全自動で単離するシステム開発の共同研究を行うことで合意いたしました。
本共同研究は、医療、臨床施設において、研究領域から診断(リキッドバイオプシー)、さらには治療領域での幅広い利用を実現し、微妙で高度な技術が要求される細胞処理工程の迅速、正確な自動化を目指すものです。
免疫細胞やがん細胞、目的細胞及び生体分子を、研究、臨床の目的に合わせて合理的に取り出すことができれば、それぞれの分野において、大きな成果が期待できます。 細胞や生体分子の持つ情報や機能を有効に活用する全自動システムの開発は次世代医療につながる道を拓いていけるものと期待しています。
今後、本共同研究の進展があれば、速やかに報告いたします。
研究体制
〇京都大学 研究代表者: 京都大学大学院医学研究科 腫瘍薬物治療学講座 教授 武藤 学 (クリニカルバイオリソースセンター センター長兼任) 研究責任者: 京都大学医学部附属病院 クリニカルバイオリソースセンター 病院特任教授 田澤 裕光
〇PSS 研究代表者: プレシジョン・システム・サイエンス株式会社 代表取締役社長 田島 秀二
用語説明
注1 末梢血PBMC
末梢血から分離された単核細胞のこと。PBMCには、T細胞、B細胞、NK細胞、単球および樹状細胞などの多様なリンパ球が含まれている。 これらのリンパ球は、体液性免疫と細胞性免疫の両方に関与する免疫系の重要な構成要素であることから、PMBCは医学・生物学系の研究に幅広く用いられている。
注2 目的細胞
PBMCの細胞分画の中には、特異抗原やネオアンチゲン等を認識して細胞障害性を持つT細胞やNK細胞、あるいは抗体を産生するB細胞等個別な機能を発現する細胞が存在し、
また末梢血血漿成分には体細胞やDNA,RNA,タンパク等が存在するが、本共同研究においてはこれらの細胞や生体分子を目的細胞の対象とする。
これらの目的細胞の単離と解析は感染症やがんの病態解析や治療法の研究開発に広く応用されている。
注3 自動分離装置
ヒ一般的にPMBCは、室温条件で密度遠心分離を行うことで赤血球の除去および単核球細胞画分を回収する方法が利用され、 また目的細胞や生体分子の単離はそれらを認識する抗体やリガンドを用いた高度な技術を含む複雑で多大な工数を要する方法で単離される。 本共同研究では、PSSが開発したセンサーとナノ磁性体粒子を応用してPBMCと目的細胞を高品質・効率的に全自動で単離する装置の開発を目指す。
注4 バイオバンク
ヒト生体試料を被検者の同意の下に採取・前処理・保管を行い、倫理承認に基づく研究利用のための利活用の機会を提供する仕組みのこと。