2024年3月4日
概要
京都大学医学部附属病院呼吸器外科(伊達洋至教授、大角明宏講師)、京都大学医学部附属病院肝胆膵・移植外科(波多野悦朗教授)、京都大学医学部附属病院小児外科(岡本竜弥病院講師)は、2023年11月15日に生体肺肝同時移植を世界で初めて実施しましたので、その結果を報告します。
患児:関東地区在住、10歳未満
臓器提供者:40歳代の父 (肺右下葉)
40歳代の母 (肺左下葉)
60歳代の祖父(肝左葉)
先天性角化不全症は、テロメア(染色体の末端の構造物)の異常によって、皮膚、粘膜、神経系、肺、肝などの全身臓器の異常のほか再生不良性貧血をともなう先天性疾患です。
患児は、2歳から再生不良性貧血を発症し4歳の時に妹から同種骨髄移植を受けました。その後、多発性肺動静脈瘻(肺動脈と静脈が直接つながるため酸素が取り込めなくなる)と肝硬変に伴う門脈圧亢進症(肝臓に流入する血管の圧が高くなる)をきたしました。救命には、肺移植と肝移植の両方が必要な状態となりました。
2023年11月15日の生体肺肝同時移植は、3名のドナーとレシピエントの手術のために4つの手術室を使って実施しました。まず、両側の生体肺移植を行い、ひきつづき生体肝移植を実施しました。生体肺移植は、呼吸器外科の伊達洋至(教授)と主治医の大角明宏(講師)が執刀しました。生体肝移植は、肝胆膵・移植外科の波多野悦朗(教授)の監督下に小児外科の岡本竜弥(病院講師)が執刀しました。手術は、呼吸器外科、肝胆膵・移植外科及び小児外科に加えて心臓血管外科、麻酔科、手術部、臨床工学技士など約30名のスタッフが協力して18時間11分で無事終了しました。
肺移植と肝移植では、免疫抑制療法、水分管理などの多くの点で、治療方法は異なります。呼吸器外科、肝胆膵・移植外科、小児外科、集中治療部などで、繰り返し議論を行い、難しい術後管理を乗り切りました。
患児は、酸素療法なしで歩行可能となり、2024年3月1日、元気に自宅退院いたしました。また、臓器を提供した両親および祖父は、すでに社会復帰されています。
本移植手術の意義
諸外国では、脳死ドナーからの肺肝同時移植は少ないながらも行われており、その成績は単独の肺移植や肝移植と比較して、さほど低いものではないとされています。しかしながら、日本では、脳死ドナー数が少ないこともあり、脳死ドナーからの肺と肝臓の同時移植は行われていません。今回、生体肺肝同時移植が成功したことは、肺と肝臓の両方に障害のある患者への新しい治療の可能性を広げたという意義は大きいと考えます。
今回の生体肺肝同時移植では、一人のレシピエント(患者)に対して3名の血族(両親と祖父)が臓器を提供されました。骨髄移植ドナー(妹)を含めると4名になります。生体肺肝同時移植の必要性や手術のリスクなどについて、家族には複数回ご説明した上で、強い希望を確認し実施に至りました。
ご両親からのコメント
今回は息子の肺肝同時生体移植をご提案くださり、本当にありがとうございました。
当初はもう打つ手がないものと絶望的な気持ちでしたが、京大病院にも様々なリスクがある中で、今回の提案をしてくださったことが私たち家族にとっては唯一の希望でした。
京大病院の医師の皆様のおかげで手術が無事成功に終わり、その後の治療もICUや小児病棟の皆様の献身的なサポートで順調に回復することができました。
改めて皆様に感謝申し上げます。
最後に、今回の移植の例を機に、これまで移植を諦めるしかなく、何もできないもどかしさや絶望感を抱えている患者さんや親族の方の一筋の光になれば嬉しいと考えております。
本当にありがとうございました。