ダイアベティス(糖尿病)をもつ高齢者では、血糖値の管理だけでなく、加齢に伴って起こりやすい「サルコペニア*1(筋肉量の減少や筋力・身体機能の低下)」を防ぐことが重要です。近年、日本でも使用が広がっているSGLT2阻害薬*2には優れた血糖改善・減量効果がある一方、筋肉の減少を助長するのではないかという懸念が指摘されてきました。そこで、京都大学、岐阜大学、関西電力医学研究所、久留米大学などの研究グループ(BALLAST Study Group)は、サルコペニア予防に有効とされるたんぱく質摂取と筋力トレーニング(レジスタンス運動)を実践している2型のダイアベティスをもつ日本人高齢者において、SGLT2阻害薬「ルセオグリフロジン」の長期的な有効性と安全性をランダム化比較試験で検証しました。
本研究(BALLAST study)では、65歳以上の2型のダイアベティスをもつ日本人高齢者を対象に、ルセオグリフロジンを1年間(52週間)服用する群(ルセオグリフロジン群)と服用しない群(コントロール群)で比較を行いました。すべての参加者は、管理栄養士による栄養相談のもと、筋肉維持に重要なたんぱく質を十分に摂取し、ロイシン高配合アミノ酸サプリメント(アミノエール®)を毎日補給しました。さらに、自宅で安全に続けられる筋肉トレーニング(レジスタンス運動)として、JADEC(公益社団法人日本糖尿病協会)の運動動画*3を活用した筋肉トレーニングを実施しました。
その結果、ルセオグリフロジン群では、コントロール群と比較して、血糖管理指標であるHbA1cが平均0.36%改善し、体重も平均1.15kg減少しました。一方、SMI(骨格筋量指数)*4、握力、5回椅子立ち上がり時間などには両群で差はなく、筋肉量や筋力、身体機能への悪影響は認められませんでした。また、重症低血糖や脱水、ケトアシドーシスなどの重大な副作用も確認されませんでした。
これらの結果から、サルコペニア予防のための栄養と運動を十分に行っている2型のダイアベティスをもつ高齢者では、SGLT2阻害薬を安全に使用でき、血糖値や体重の改善効果を得られる可能性が示されました。
本研究成果は、日本時間2026年1月21日に国際学術誌「Diabetes, Obesity and Metabolism」オンライン版に掲載されました。
【研究背景】
日本は世界でも例を見ないスピードで高齢化が進んでおり、ダイアベティス(糖尿病)をもつ高齢者が急増しています。ダイアベティスをもつ高齢者では、血糖値を適切に管理して合併症を防ぐことに加えて、加齢に伴って起こりやすい「サルコペニア*1(筋肉量の減少や筋力・身体機能の低下)」を予防・管理することが大きな課題となっています。そのため、高齢の糖尿病患者には、十分なエネルギー摂取、とくにたんぱく質をしっかりとることや、筋力を保つための筋肉トレーニング(レジスタンス運動)が重要です。
2型のダイアベティスに対する治療薬であるSGLT2阻害薬*2は、血糖値を下げるだけでなく体重も減らし、さらに心不全や慢性腎臓病の予防につながる効果が報告されており、日本でも使用が広がっています。一方で、体重が減る際に脂肪だけでなく筋肉まで減ってしまい、サルコペニアを悪化させるのではないかという懸念が指摘されてきました。
そこで、京都大学、岐阜大学、関西電力医学研究所、久留米大学の研究グループ(BALLAST Study Group)は、サルコペニア予防として推奨される「たんぱく質摂取」と「レジスタンス運動」を行っている2型のダイアベティスをもつ高齢者にSGLT2阻害薬を使用した場合、血糖改善や減量の効果が十分に得られるか、また筋肉量や筋力、身体機能に悪影響が出ないかを調べるため、52週間にわたる多施設共同の臨床試験を実施しました。
雑誌名:Diabetes, Obesity and Metabolism
論文タイトル:BALLAST study: A multicentre, open-label, randomized-controlled, 52-week clinical trial of the efficacy and safety of luseogliflozin in older Japanese adults with type 2 diabetes receiving leucine-enriched amino acid supplementation and physical exercise programme
著者:Yoshihiro Takahashi(※), Makoto Hayashi, Takehiro Kato, Yukio Horikawa, Shin Tsunekawa, Hitoshi Kuwata, Yutaka Seino, Ryota Ogata, Kenta Murotani, Daisuke Yabe(※) and BALLAST Study Group
(※) Corresponding author
DOI: 10.1111/dom.70494