●センター長
●副センター長
わたしたちの脳は、各領域がネットワークを形成し、有機的なシステムとして精巧に機能しています。正常に機能している脳のシステムの一部に障害が起こることで、神経回路が変調を起こし、様々な脳神経の病気が出現します。近年の目覚ましい医療技術の革新により、かつては困難とされた脳の特定の部位を正確に刺激して神経活動を活性化あるいは抑制することで神経回路の修復・調整が可能となりました。
このような技術の発展に対応するため、CiSNeuroでは本院の精神科神経科、脳神経内科、脳神経外科といった中枢神経医療のエキスパートが結集し、これまで以上にシームレスに連携できる診療・研究体制を整えました。
●業務内容
※ 外来の開設については現在検討中です。新しい外来が開設されるまでは、これまでの診療科(脳神経外科や脳神経内科、精神科神経科など)にて(紹介)受診してください。
●特色ある取り組み
CiSNeuroでは、保険収載の治療、治験、臨床研究と、研究開発から臨床まで幅広く、治療創発を目指します。
脳室腹腔シャント術(VPS, ventriculo-peritoneal shunt)・腰椎腹腔シャント術(LPS, lumbo-peritoneal shunt 保険収載治療)
特発性正常圧水頭症(iNPH)の患者さんを対象とした治療です。VPSは、脳室に細いカテーテルを留置し、過剰な脳脊髄液を腹腔へ排出する方法です。一方、LPSは、腰椎のくも膜下腔にカテーテルを留置して腹腔へ導く方法です。iNPHでは脳脊髄液の循環障害により脳室が拡大し、歩行障害、認知機能低下、尿失禁などの症状を呈しますが、シャント術を適切に行うことで脳室拡大により障害された神経回路機能が回復し、症状の改善、患者さんの生活の質(QOL)の向上が期待できます。
脳深部刺激療法(DBS, deep brain stimulation 保険収載治療)
外科的に脳へ微小電極を挿入し、標的となる脳構造を破壊することなしに、変調している神経回路の活動を調整します。心臓のペースメーカーと似ていることから、脳の働きを調整する「脳のペースメーカー」とも言われます。パーキンソン病や難治性焦点てんかんに対してはすでに臨床応用されている信頼性の高い技術です。今後、治験として難治性全般てんかんへの臨床応用も計画しています。
定位的頭蓋内脳波(SEEG, stereo-EEG 保険収載治療)
難治性焦点てんかんを対象とし、脳に細い脳波電極(深部電極)を複数挿入することで、てんかん発作がどこから始まり、どのように広がるのかを詳しく調べます。綿密な計画を行い、脳神経外科医が精密かつ高度な技術で電極を留置する、てんかん外科治療のために重要な最先端の評価法です。このSEEGで得られた情報を基に、てんかん焦点切除術を行い、発作の抑制・改善を目指します。発作の広がりに関与している視床という領域の活動を調べて、DBS等の脳刺激法の効果を予測する試みにも取り組みます。
迷走神経刺激療法(VNS, vagus nerve stimulation 保険収載治療)
薬物療法で十分に発作が抑制されない難治性てんかんを対象とし、胸部に小型の刺激装置を埋め込み、左の頚部にある迷走神経(副交感神経)という神経を介して脳の過剰な興奮を抑える治療です。てんかん発作の頻度を減らす効果が期待されます。また、脳卒中後の運動機能改善についても応用を検討しています。現在は埋め込み型が主流ですが、非埋め込みタイプの迷走神経刺激デバイスについても今後臨床応用を進めます。
けいれん療法(ECT, electroconvulsive therapy 保険収載治療/MST, magnetic seizure therapy 治験)
全身麻酔をした状態で脳内に0.5秒程度電気刺激を行い、30秒程度の発作活動を引き起こす治療です。重症あるいは難治のうつ病を持つ患者さんの症状を大幅に改善する効果があります。従来のECTでは電流を用いた刺激を行いますが、磁気を用いた刺激を行うMSTの医師主導治験も予定されています。
iPS細胞移植(治験)
患者さんの脳の中で細胞の機能が低下したところに、iPS細胞から作製した健康な脳細胞を移植して神経回路の修復をめざす、京都大学iPS細胞研究所と本院が世界に先駆けて報告した革新的治療です。パーキンソン病だけでなく、脳梗塞の患者さんを対象にした治験も予定しています。
発作感応型脳刺激療法(RNS, responsive neurostimulation 国内未承認)
難治性焦点てんかんを対象とし、脳内の微小電極を使っててんかん発作時の脳波の変化をいち早く検知し、自律的に電気刺激をおこなうことで発作の制止を試みます。またてんかん発作そのものの頻度を減らす効果もあります。頭皮上脳波やSEEGは長くても数週間しか持続的な脳波の記録ができませんが、RNSでは時間的な制限なく、かつノイズの少ない脳波を記録することができるのが大きな特徴です。脳波の情報を元にした治療効果の向上、発作予測などへの応用が期待されています。現在日本では未承認ですが、今後、日本での導入に際して企業治験等が開始される際には、本院もいち早く参加する予定です。
非侵襲的脳刺激(NBS, non-invasive brain stimulation 臨床研究)
微小な電気や磁気で刺激して、脳を傷つけることなく特定の神経回路を調整する治療法です。経頭蓋的な直流電気刺激、交流電気刺激や静磁場刺激といった手法があり、痛んだ脳機能を改善させたり、変調した回路を修復したりする効果を持ちます。摂食症(神経性やせ症)の症状改善や、手術後のせん妄予防、焦点てんかんや認知症の治療を目的とした臨床研究が予定されています。
機能結合ニューロフィードバック(FCNef, functional connectivity neurofeedback 臨床研究)
リアルタイムで測定した自分の脳活動をモニターしながら自己調節し、脳内のつながり具合(ネットワーク)を変化させる治療法で、これまでにも安全性とともに精神症状の改善や認知機能向上といった効果が示されてきました。今後、うつ病や統合失調症をお持ちの患者さんを対象とした臨床試験を実施する予定です。
医療機器
脳磁図によるてんかん病態の評価(MEG, magnetoencephalography 保険収載)
脳の神経活動によって生じるごく微弱な磁場を、ヘルメット型装置に内蔵された306個の高感度センサーで高精度に測定する、先進的で極めて有用な神経生理学的検査です。頭部を装置に入れるだけで行うことができ、安全で身体的負担の少ない検査です。脳波検査より空間的な精度が格段に高く、難治性焦点てんかんの術前評価では焦点部位の正確な特定や手術方法の決定に大きく貢献します。さらに、焦点てんかん(特に前頭葉てんかん)と全般てんかんの鑑別、意識や認知が変容・消失する患者さんの病態評価、そしててんかんか否かの鑑別にも非常に有用です。
在宅脳波記録のための超小型ウェアラブル脳波計の開発
脳機能やてんかん病態の評価にかかせない脳波の検査は、これまで外来での検査やてんかんモニタリングユニット(EMU)での長時間ビデオ脳波モニタリング検査に限られていました。睡眠を含めた脳波の長時間検査は、脳機能・意識変容・てんかん病態の把握に重要です。在宅脳波記録が可能な超小型ウェアラブル脳波計の研究開発を行い、2025年度中に保険収載を目指しています。本機器をもちいた認知症やてんかん病態の臨床研究を予定しています。
●保険診療についての連絡・相談窓口
・難治性焦点てんかんに対する定位的頭蓋内脳波(SEEG)
担当 菊池隆幸・澤田眞寛(脳神経外科)・小林勝哉(脳神経内科)
・パーキンソン病に対する脳深部刺激(DBS)
担当 菊池隆幸・澤田眞寛(脳神経外科)・中西悦郎(脳神経内科)
・難治性焦点てんかんに対する脳深部刺激(DBS)
担当 菊池隆幸・澤田眞寛(脳神経外科)・小林勝哉(脳神経内科)
・難治性てんかんに対する迷走神経刺激(VNS)
担当 菊池隆幸・澤田眞寛(脳神経外科)・小林勝哉(脳神経内科)
・うつ病、統合失調症、カタトニアに対する電気けいれん療法(ECT)
担当 諏訪太朗・稲葉啓通(精神科神経科)
・特発性正常圧水頭症に対するシャント術
担当 澤田眞寛(脳神経外科)水頭症外来
・脳磁図検査(難治てんかん術前評価・てんかん鑑別)
担当 小林勝哉・河村祐貴(脳神経内科)
<予約方法>
各診療科の受診を希望される場合は、通常どおりご予約が可能です。以下ご確認いただき、かかりつけ医等の医療機関にご相談の上、医療機関よりご予約ください。
●臨床研究・治験の被験者募集
※現在募集中のもの
・摂食症の認知機能に対する経頭蓋直流電気刺激(tDCS) (健常被験者も募集しています)
担当 磯部昌憲(精神科神経科)
問い合わせ先 tedi.tdcs.recruit*gmail.com (*を@に変えてください)
・ECTを受けられる患者さんの脳画像研究(ECTを受けない健常被験者も募集しています)
担当 諏訪太朗(精神科神経科)
問い合わせ先 kupsy.research*gmail.com (*を@に変えてください)
※準備中のもの:募集開始次第、当HPでお知らせします。
・難治性うつ病に対する磁気けいれん療法(MST)
・うつ病と統合失調症を対象とした脳機能結合ニューロフィードバック
・ウェアラブル在宅脳波計を用いた認知症患者およびその予備軍における意識・認知変動の定量化法の研究開発
・静磁場刺激による難治性焦点てんかんの発作抑制