2020年6月4日
概要
京都大学iPS細胞研究所(CiRA)の井上治久 教授(京都大学医学部附属病院流動プロジェクト プロジェクトリーダー併任)、三重大学医学部附属病院の冨本秀和 教授、京都大学医学部附属病院の坂野晴彦 准教授らは、「プレセニリン1遺伝子変異アルツハイマー病に対するTW-012R(ブロモクリプチン)の安全性と有効性を検討する二重盲検比較試験及び非盲検継続投与試験注1,2」を計画してきました。
独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)に治験計画届を提出し、この度、医師主導治験を開始する運びとなりましたので、下記の通り発表いたします。
●治験責任医師
三重大学医学部附属病院 脳神経内科 新堂 晃大 助教
京都大学医学部附属病院 脳神経内科 眞木 崇州 講師
大阪大学医学部附属病院 神経科・精神科 池田 学 教授
徳島大学病院 脳神経内科 和泉 唯信 教授
東京都健康長寿医療センター 脳卒中内科 金丸 和富 部長
浅香山病院 精神科 釜江 和恵 部長
川崎医科大学附属病院 脳神経内科 砂田 芳秀 教授
背景
アルツハイマー病は進行性の疾患で、進行するにしたがって脳細胞が死滅し、脳萎縮をきたし、物忘れや日時・場所がわからなくなるなどの認知機能障害を生じます。アルツハイマー病は認知症の原因の半数以上を占め、超高齢社会において解決すべき喫緊の課題となっています。現在、認知症治療薬としていくつかの薬剤が使用されています。しかし、アルツハイマー病は根本的治療が難しい疾患であり、さらなる治療薬の開発が求められています。
CiRAの近藤孝之 特定拠点講師、井上治久 教授らは、アルツハイマー病患者さん由来のiPS細胞を大脳皮質神経細胞注3へ分化させ、その細胞を用いて、既に他の疾患で治療薬として用いられている既存薬の中から病因となるタンパク質アミロイドベータを減らす化合物のスクリーニング注4を行いました。その結果、最も強力な候補物質としてブロモクリプチンを同定し報告しました。ブロモクリプチンは、パーキンソン症候群などの治療薬として用いられている既存薬ですが、アルツハイマー病病因物質であるアミロイドベータを低減させる働きが、特にプレセニリン1遺伝子変異を持つ家族性アルツハイマー病患者さんのiPS細胞モデルで認められています。
参照:CiRAプレスリリース2017年11月22日
経過
医師主導治験の計画概要
- (1) 治験課題名
「プレセニリン1遺伝子変異アルツハイマー病に対するTW-012R(ブロモクリプチン)の安全性と有効性を検討する二重盲検比較試験及び非盲検継続投与試験」
- (2) 治験の目的
ブロモクリプチンはパーキンソン症候群などの治療薬として用いられている既存薬ですが、アルツハイマー病患者さんにおける安全性は明らかにされていないため、本治験では、患者さんに対する安全性および有効性を評価することを目的としています。
- (3) 試験デザイン
三重大学医学部附属病院、京都大学医学部附属病院を含む多施設共同で二重盲検試験および非盲検試験注2を行います。
家族性アルツハイマー病患者さんに、約50週間にわたって治験薬を内服していただきます。
- (4) 主な適格基準
【選択基準】
- プレセニリン1遺伝子に変異をもつアルツハイマー病患者
- 信頼できる親密な関係のパートナー/介護者のいるもの
- 患者さん本人または代諾者から文書による同意が得られているもの 等
【除外基準】
- 錠剤の経口摂取が困難なもの
- アルツハイマー病以外の病態による認知症が認められるもの
- 心臓超音波検査により、心臓弁尖肥厚、心臓弁可動制限及びこれらに伴う狭窄等の心臓弁膜の病変の既往/合併のあるもの
- 妊婦、授乳婦、妊娠している可能性がある女性(妊娠検査を実施し、妊娠の有無を確認する)、妊娠を希望している女性
- 同意取得前5年以内に悪性腫瘍の既往のあるもの 等
※プレセニリン1変異を持つ家族性アルツハイマー病と診断が既についていない方は対象となりません。
適格基準に関する詳細は以下のページをご覧ください(医療関係者向け)。
https://jrct.niph.go.jp/latest-detail/jRCT2041200008
- (5) 目標症例数
10例
- (6) 治験実施機関
三重大学医学部附属病院、京都大学医学部附属病院、大阪大学医学部附属病院、徳島大学病院、東京都健康長寿医療センター、浅香山病院、川崎医科大学附属病院の7機関で実施予定です。
- (7) 観察期間
参加者の通院の期間として、1年程度を予定しています。
- (8) 治験参加の募集について
安全性の評価が主目的であり、限定された症例数に対して実施するため、募集は行いません。
- (9) 備考
本治験に関する詳細につきましては、以下のサイトをご覧ください(医療関係者向け)。
https://jrct.niph.go.jp/latest-detail/jRCT2041200008
医師主導治験の実施体制
- 〇 主任研究者:
京都大学iPS細胞研究所 増殖分化機構研究部門 井上治久 教授
(京都大学医学部附属病院 先端医療研究開発機構(iACT)流動プロジェクト(アルツハイマー病iPS創薬プロジェクト) プロジェクトリーダー)
- 〇 治験調整医師:
三重大学医学部附属病院 冨本秀和 神経病態内科学(脳神経内科) 教授
京都大学医学部附属病院 坂野晴彦 先端医療研究開発機構(iACT) 准教授
- 〇 治験調整事務局
京都大学医学部附属病院 先端医療研究開発機構(iACT) 奥宮太郎、網野祥子、坂野晴彦
医師主導治験への支援
本治験は、京都大学発ベンチャーであるタイムセラ株式会社(代表取締役社長 渡邉敏文) より支援を受けて実施されます。
本治験の治験薬は、東和薬品株式会社(代表取締役社長 吉田逸郎)より提供を受けます。
用語解説
- 注1)プレセニリン1遺伝子変異を持つ家族性アルツハイマー病
アルツハイマー病には、常染色体優性遺伝の若年発症の家族性と95%以上を占める孤発性とがある。プレセニリン1変異は、家族性アルツハイマー病の半数以上を占め、プレセニリン2変異およびアミロイドβ蛋白前駆体(APP)変異とともに、家族性アルツハイマー病の原因となる。認知症を主症状として、平均発症年齢は40歳代、比較的病気の進行が速い傾向がある。
- 注2)二重盲検試験・非盲検試験
治験を行う際に、患者さんが治験薬を投与されているか偽薬(プラセボ)を投与されているかなどを、患者さん自身および治験担当医師や治験コーディネーターなどの治験にかかわる病院の医療関係者が分かっていない方法を二重盲検試験といい、分かっている方法を非盲検試験という。
- 注3)大脳皮質神経細胞
大脳の表面に広がる、灰白質という神経細胞の層を構成する。知覚、随意運動、思考、推理、記憶など、脳の高次機能を司る神経細胞のこと。
- 注4)スクリーニング
多数の化合物の中から有効な化合物を見つけること。