2024年7月1日
京都大学医学部附属病院
三洋化成工業株式会社
京都大学医学部附属病院形成外科 森本尚樹 教授ら(以下、京大病院)と三洋化成工業株式会社(本社:京都市東山区、代表取締役社長:樋口 章憲、以下、三洋化成)は、慢性創傷*1の治療を目的に共同開発した新規治療材料シルクエラスチン®スポンジ*2について、2021年7月より実施していた企業治験において、安全性と有効性の両面で良好な結果が得られたことをお知らせいたします。
本治験結果を受け、三洋化成は慢性創傷の治療材シルクエラスチン®スポンジの製造販売承認の申請を行い、来年度の実用化を目指します。
概要
近年、糖尿病患者の増加あるいは高齢化に伴い、糖尿病性皮膚潰瘍等に代表される治りにくい創傷(慢性創傷)の増加が問題となっています。慢性創傷ではさまざまな原因で治癒が遅れることで、細菌に感染し、更に治癒が遅れる悪循環になりやすいことが知られています。開発した新規治療材料は人工タンパク質シルクエラスチン®で作製されたもので、これまでに、感染しやすい慢性創傷に対して、動物実験等での有効性と、京大病院で実施した医師主導治験*3での安全性が確認されております。
企業治験結果
医師主導治験の結果を受け、シルクエラスチン®スポンジの創傷治癒材としての有効性を確認することを目的に、三洋化成工業株式会社が中心となり、京大病院と広陵化学工業株式会社とともに、国内5医療機関にて2021年7月から2023年5月まで企業治験を実施しました。
対象は、既存の保存的な標準治療には奏効しない、あるいは奏効しないと考えられる難治性の皮膚欠損創を有する患者で、慢性創傷(糖尿病性潰瘍、静脈うっ滞性潰瘍、褥瘡等) 20例、急性創傷(複雑性創傷、深達性II度以上の熱傷、コントロール可能で沈静化すると考えられる局所感染創傷) 5例です。
本治験において、シルクエラスチン®スポンジは25例中23例で奏功を認め、高い有効性が確認されました。また、安全性についても医師主導治験から新たな有害性事象や不具合も認めず、一貫した安全性が確認されました。
なお、本治験は国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED) 医工連携事業化推進事業の支援*4を受けて実施いたしました。
シルクエラスチン®スポンジ | シルクエラスチン®スポンジを用いる企業治験 |
2.波及効果、今後の予定
今回の企業治験データを基に、慢性創傷を治療する医療機器としてとして薬事承認申請を行い、来年度中の国内上市を目指します。
シルクエラスチン®スポンジが医療機器として承認された際には、日本初の遺伝子組み換え技術を用いた医療機器となり、従来の標準治療には奏効しなかった慢性創傷の患者様をはじめ、様々な皮膚損傷を修復する新たな治療選択肢に加わり、QOL向上に貢献することが期待できます。
*1 慢性創傷(難治性皮膚潰瘍)について
やけどやケガ、皮膚がんの切除などで皮膚が欠損した場合、傷を治す力があれば、通常の治療で治りますが、その力がない傷を慢性創傷(難治性皮膚潰瘍)といいます。慢性創傷は、治るのに長い時間がかかる、あるいは治らないことが問題になります。慢性創傷の原因としては糖尿病、静脈還流うっ滞、褥瘡(床ずれ)、膠原病等があります。慢性創傷を治すためには、傷を乾燥させず(湿潤を保ち)、かつ細菌感染を起こさないように、毎日傷を洗い、傷を治す軟膏を使用したり、被覆材を貼り替えたりする必要があります。数日間そのまま交換しなければ、細菌が増えて感染が起こります。
*2 慢性創傷治療材料としてのシルクエラスチン®スポンジについて
シルクエラスチン®は、シルクフィブロイン※(1)の部分配列とエラスチン※(2)の部分配列とを組み合わせ、遺伝子組み換え技術によって作製された人工タンパク質です(図1)。シルクエラスチン水溶液は加温するとタンパク質の構造が変化し、水分を含んだ状態で固まる(ゲル化する)という特徴があります(図2)。このシルクエラスチン®は細菌感染を助長せず、傷を治す力を増強する(創傷治癒を促進する)ことを発見しました。
*3 医師主導治験について
京大病院で2018年2月から12月まで、下腿難治性皮膚潰瘍を対象として、シルクエラスチン®スポンジを用いた医師主導治験を行い、本材料の安全性を確認しました。
*4 国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED) 医工連携事業化推進事業の支援について
課題名:革新的タンパク質シルクエラスチン®を用いた創傷治癒材の開発・事業化として支援いただきました。
https://www.med-device.jp/developmentorg/01-303/
図1.シルクエラスチン®の構造 |
図2.シルクエラスチン®水溶液のゲル化 |
<用語説明>
※1 シルクフィブロイン:カイコが産生する繊維状のタンパク質であり、シルクの原料になる。
※2 エラスチン:弾性線維を構成する主要なタンパク質。皮膚や肺、動脈が伸縮するのは弾性線維の働きによる。
【関連リンク】
●三洋化成と京大病院による医師主導治験開始に関するプレスリリース
「下腿難治性皮膚潰瘍を対象としたシルクエラスチンスポンジを用いた医師主導治験を開始」
https://www.amed.go.jp/news/release_20180205-01.html
●三洋化成と京大病院による医師主導治験結果に関するプレスリリース
「難治性の傷を治す人工タンパク質を開発-産官学連携で医師主導治験を経て企業治験へー」
https://www.sanyo-chemical.co.jp/archives/4820
●三洋化成と京大病院による企業治験開始に関するプレスリリース
「難治性の傷を治す⼈⼯タンパク質の企業治験を2021年7⽉より開始 -慢性創傷を治療する⾰新的な治療法として2023 年の実⽤化を⽬指す-」
https://www.sanyo-chemical.co.jp/archives/8422
【お問い合わせ先】
三洋化成工業株式会社 コーポレート・ガバナンス部
〒605-0995 京都市東山区一橋野本町11-1
TEL:075-541-4312
E-mail:pr-group@sanyo-chemical.group