2026年8月18日
全身性エリテマトーデス(SLE)の重要な合併症であるループス腎炎注1では、腎臓の中に、リンパ節に似た免疫細胞の集まりである三次リンパ組織(Tertiary Lymphoid Structure: TLS)注2が形成されることがあります。しかし、どのような患者でTLSが形成され、腎障害とどのように関連するかは十分にわかっていませんでした。
柳田素子 医学研究科教授(兼:高等研究員ヒト生物学高等研究拠点(ASHBi)主任研究者)、佐藤有紀 同特定准教授、近藤麻紀子 同研究生(現:大津日赤病院腎臓内科)らの研究グループは、虎の門病院との共同研究にて、ループス腎炎の患者205人の腎生検注3組織を解析し21.0%にTLSを認め、その頻度が年齢とともに増加することを見出しました。さらにTLSは、SLEの全身の疾患活動性ではなく、腎組織の慢性的な組織障害と関連していました。
本グループは以前より、TLS形成が加齢や腎障害と関連することを見出していましたが、本研究は、ループス腎炎においても腎臓内のTLS形成が加齢や慢性的な腎組織障害と密接に関連していることを示しています。本研究はループス腎炎における免疫老化と腎局所免疫応答の関係を理解し、今後の病態解明や新たな治療標的の探索に繋がる知見と考えられます。
本研究成果は2026年8月6日に、国際雑誌「Kidney International Reports」にオンライン掲載されました。
ループス腎炎の腎予後は数十年前と比較して改善していますが、依然として慢性腎臓病へ進展する場合も多く、本研究がループス腎炎の腎障害の理解を深め、慢性腎臓病への進展抑制の一助となれれば嬉しいです。(近藤麻紀子)
全身性エリテマトーデス(SLE)は、免疫系が誤って自分自身の組織を攻撃する自己免疫疾患です。その中でもループス腎炎は、腎臓に炎症が起こる重篤な合併症であり、将来の腎機能に影響することがあります。
ループス腎炎の診断ではこれまで血液を濾過する「糸球体」の病変が重視されてきましたが、近年は糸球体の周囲に広がる間質の炎症・障害も、その後の腎機能と密接に関わることが明らかになり、間質に形成される局所の免疫環境について注目が集まっております。
三次リンパ組織 (TLS)は慢性炎症を背景として、本来リンパ節ではない臓器に形成される、リンパ節に似た免疫細胞の集まりです。腎臓では主に間質に形成され、T細胞やB細胞、線維芽細胞などが組織的に集合して相互作用することで、局所で免疫反応を活性化する場として機能します。研究グループはこれまで、高齢の腎臓では障害後にTLSが形成されやすいこと、TLSが腎臓内の炎症を維持・増幅し、腎機能の悪化に関与する可能性を報告してきました。
しかし、ループス腎炎で誘導されるTLSが、患者の年齢、全身のSLEの活動性、腎機能、腎組織の障害とどのように関連するかは十分にわかっていませんでした。
そこで、本研究では、ループス腎炎患者の腎生検組織を用いて、腎臓内に形成されるTLSの頻度と、年齢、腎機能、全身の疾患活動性および腎病理所見との関係を検討しました。
研究グループは、京都大学医学部附属病院および国家公務員共済組合連合会 虎の門病院において、腎生検にてループス腎炎と診断された成人患者205人の生検組織を解析しました。まずPAS染色で単核球の集簇を探し、次に免疫蛍光染色注4を用いてこれらの細胞を評価し、「T細胞とB細胞から構成される細胞集簇で増殖中の細胞を含む構造」をTLSと定義し、定量化を行いました。さらにTLSの有無と年齢、腎機能、尿蛋白、血液検査、SLEの活動性、腎病理所見との関連を比較する統計解析を行いました。また年齢との関連が別の患者集団でも再現されるかを確認するため、過去に報告された欧米のループス腎炎コホートのデータを用いて、本研究で使用したTLSの定義を用いて再解析を行いました。
① ループス腎炎患者の約5人に1人でTLSを確認
205人のうち、PAS染色で単核球の集簇を認めた患者は63人でした。そのうち43人が本研究のTLSの定義を満たし、全患者の21.0%、すなわち約5人に1人の腎臓にTLSが形成されていました。
② TLSは年齢とともに増加
TLSがある患者の年齢中央値は48歳で、TLSがない患者の35歳より有意に高い結果でした。年齢層別のTLS陽性割合は、30歳未満13%、30~49歳16%、50歳以上41%であり、年齢が高いほどTLSが形成される割合が増加しました。年齢が10歳高くなるごとにTLSが認められる統計的なオッズは約1.6倍となりました。さらに、過去に報告された欧米の別のループス腎炎患者集団を再解析したところ、年齢とTLS形成との関連が同様に確認されました。
本研究は205例のループス腎炎患者の腎生検組織の解析し、ループス腎炎においてTLSが加齢および慢性的な組織障害と関連することを示しました。さらに加齢とTLSの関連は独立した欧米のループス腎炎コホートにおいても確認されました。
将来的にはTLSが腎臓内の慢性炎症や障害の状態を捉える病理学的な手がかりとなり、患者ごとの病態をより詳しく分類するための指標につながる可能性があります。
本研究は以下の資金の援助を受けて行われました。国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)(JP24gm0010011, JP19gm1210009, JP21zf0127003, JP22ek0310020, 21lm0203006, TR-SPRINT)、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(20H03697, JP23H02925, 25K24939, JPMJSF2315) , TMKプロジェクト、上原記念生命科学財団、公益財団法人武田科学振興財団、公益財団法人住友生命健康財団、公益財団法人アステラス病態代謝研究会、World Premier International Research Center Initiative (WPI), MEXT.
注1 ループス腎炎:SLEによって腎臓に炎症が起こる病気です。尿蛋白や血尿、腎機能低下などを来すSLEの重要な臓器合併症の一つです。
注2 三次リンパ組織(TLS):本来リンパ節ではない臓器に誘導される異所性のリンパ組織です。T細胞、B細胞、支持細胞などが組織的に配置され、リンパ節と同様にリンパ球を活性化することができます。癌や感染症、自己免疫疾患、高齢者の障害臓器で誘導されることがあります。
注3 腎生検:細い針で腎臓の組織を少量採取し、顕微鏡で病変を調べる検査です
注4 免疫蛍光染色:特定の分子に結合する抗体に蛍光色素を付けて視覚化し、組織の中でどこに存在するかを顕微鏡で調べる方法です。
注5 eGFR(推算糸球体濾過量):血清クレアチニン、年齢、性別などから推定する腎機能の指標です。一般に数値が低いほど、腎臓のろ過機能が低下していることを示します。
注6 慢性化指数:腎生検組織で認められた瘢痕化や組織の萎縮など、慢性的な腎組織障害の程度を数値化した指標であり、国際的に使用されているものです(NIH scoreのchronicity index)。
注7 SLE疾患活動性指数(SLEDAI):SLEの症状や検査所見を組み合わせて、全身の病気の活動性を評価する指標です。
| 論文タイトル | Tertiary lymphoid structures in lupus nephritis are associated with aging and chronic kidney injury |
|---|---|
| 著者 | Makiko Kondo, Yuki Sato, Shingo Fukuma, Naoya Toriu, Yuichiro Kitai, Keita P. Mori, Takahisa Yoshikawa, Shinya Yamamoto, Naoki Sawa, Yoshifumi Ubara, Motoko Yanagita |
| 掲載誌 | Kidney International Reports |
| DOI | https://www.kireports.org/article/S2468-0249(26)03233-X/fulltext |
| 公開日 | 20260806 |
柳田 素子(やなぎた もとこ)
京都大学大学院医学研究科 腎臓内科学 教授
TEL:075-751-3860
E-mail:motoy@kuhp.kyoto-u.ac.jp
FAX:075-751-3859
佐藤 有紀(さとう ゆうき)
京都大学 白眉センター/大学院医学研究科 がん免疫総合研究センター マルチオミクスプラットフォーム 特定准教授
TEL:075-753-4883
E-mail:yukisato@kuhp.kyoto-u.ac.jp